2023年6月13日 参議院文教科学委員会質疑(インクルーシブ教育について)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。本日もよろしくお願いいたします。

早速ですが、今年3月13日に公表された、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議の報告書についてお尋ねいたします。

同検討会議は、2022年6月から23年3月まで9回にわたり検討を重ねてきました。この検討のさなか、国連の障害者権利委員会が昨年九月、日本政府に対する総括所見を出しました。総括所見では、医療に基づくアセスメントによって障害のある子供を分離する特別教育が永続していることを懸念し、現行制度の分離特別教育を終わらせることを目的として、質の高いインクルーシブ教育に関する国家の行動計画を採択することを勧告しています。

これを受け、検討会議の中でも、最大限本人、保護者の意向を尊重した上で学びの場を決定することとなっているが、現状では最終的な決定権が教育委員会にある、権利条約を踏まえ、決定権は本人、保護者にあるべきではないかという意見が出されていました。しかし、報告書は、次のように、就学に関わる制度変更はしないと改めて示しました。

勧告の趣旨を踏まえ、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り同じ場で共に学ぶための環境の整備を始め、よりインクルーシブな社会の実現のため、関連施策などの一層の充実を図ることが求められている。各教育委員会を始め学校現場の関係者各位におかれては、障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援がなされるよう一層の取組をお願いしたい。つまり、専門家が捉えた教育的ニーズで子供を多様な場に分け、そこで支援するというインクルーシブ教育システムの推進を目指す姿勢に変わりがないということと存じます。

権利委員会の総括所見に対して、9月13日の記者会見において大臣は、現時点において多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えてはおりませんとお答えになられましたが、こうした文科省の姿勢が検討会議の議論のまとめに反映していると捉えてよろしいでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

舩後議員にお答え申し上げます。

本検討会議は、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援方策につきまして、第三者の立場から幅広く御議論をいただくために、教育、医療等の専門家に御参画をいただきまして、公開された場での真摯な御議論を行っていただきました。

本年3月の報告は、闊達な御議論の下、各委員の御見識等を反映させまして、検討会議の総意として取りまとめていただいたものでございまして、御指摘の点には当たらないものと考えております。

文部科学省といたしましては、本報告の提言を踏まえまして、よりインクルーシブな社会の実現のためにしっかりと取組を進めてまいります。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

検討会議のメンバーは、特別支援教育、発達障害に関する専門家の方が半数いらっしゃいました。今後、このような会議には通常学級で共に学ぶ実践をされている教員に是非参画していただきたく存じます。

さて、文科省は、昨年1月から2月にかけて行った通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査の結果を12月に公表しました。これによると、知的発達に遅れはないものの学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた通常の学級に在籍する児童生徒数の割合は、小中学校で推定値八・八%、高等学校で推定値二・二%となっています。

資料1を御覧ください。

報道機関は、この調査結果をこぞって8.8%に発達障害の可能性があると報道しています。

文科省は、学級担任などによる回答に基づくもので、発達障害の専門家チームによる判断や医師による診断によるものではない、したがって、本調査の結果は、発達障害のある児童生徒数の割合を示すものではなく、特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合を示すものであることに留意としているにもかかわらず、あたかも発達障害と言われる子供たちが増えているかのような印象を与えてしまっています。

文科省として、こうした社会の受け止めについてはどうお考えになりますか。

○国務大臣(永岡桂子君)

本調査は、通常の学級に在籍する学習面、行動面において特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態と支援の状況を明らかにし、今後の施策の在り方等の検討に資することを目的に実施したものでございます。したがいまして、本調査結果は、発達障害のある児童生徒の割合を示すものでは全くありません。

いずれにいたしましても、本調査の目的を踏まえまして、発達障害の有無にかかわらず、学習面、行動面で著しい困難を示し、特別な教育的支援を必要としている児童生徒がどの学級にも在籍している可能性があることを前提として各学校において幅広く実態把握を行いまして、適切な支援体制の整備が図られるよう、文部科学省として努めてまいります。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

資料2を御覧ください。

本調査の質問項目です。

一、児童生徒の困難の状況の行動面について、資料にマーカーで色を付けた、大人びている、ませている、しゃべりすぎるなどは特に目立つかどうか、平均値をどこに置くのか、教員の主観的判断にならざるを得ません。また、直接話しかけられたときに聞いていないように見えるなどは、子供に対する教員の働きかけ方が時間に追われてぞんざいになっているときの反応であったかもしれず、状況に応じて左右される質問もあります。学習面にしても行動面にしても、子供個人が持っている資質もありますが、子供同士、そして教員と子供の関係性に大きく左右されます。

給特法の質疑の際にお話を伺った小学校の先生が言っていました。学校の規則や決まり事、教員の指示が細かく厳格であればあるほどそこから外れてしまう子供は多くなり、教員の目が厳しければ厳しいほど外れる程度は大きくなる。ある行動が問題と判断するかどうかは、教員の主観が大きいと。

確かに、学習障害や感覚過敏があったり、物事の優先度が図れない、言葉でのコミュニケーションが難しいなど、集団生活の中で困難を抱え、支援を必要とする子供たちがいることは、そのとおりだと思います。

しかし、学習面でのつまずきや他人との関係形成の困難さ、集団適応のできなさを全てその子個人の問題、障害に起因すると考えるのはまさに医学モデル、個人モデルです。むしろ私には、この調査結果は、多忙で子供たちに向き合う余裕を失った教員にとって手が掛かる、対応困難と感じる児童生徒数が増えたということではないかと思えます。

長時間の時間外労働を強いられ、授業準備や子供と向き合う時間を削らざるを得ず、勤務評価が給与や昇進に直結するという管理強化の中で働いている教員にとって、10年前、20年前の調査時に比べ負担感が増しているのではないでしょうか。

この調査結果を受け、検討会議の報告書では校内委員会を充実し、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態を適切に把握し、適切な指導や必要な支援を組織的に行う、通級による指導は他校通級ではなく自校通級や巡回指導に、通級による指導を担当する教師などの専門性の向上を図るなどが提言されています。通常学級で支援を必要とする子供は確かに存在し、そのために学級全体に対して分かりやすい授業の工夫、ICTを含む合理的配慮の提供、特別支援教育支援員の配置などが挙げられていることは歓迎いたします。

しかし、教員の多忙化による負担感の増大、教員のなり手不足といった学校教育全体の不全状態を解決しない限り、支援の必要な子供への個別対応として通級指導が増大するだけで、根本的解決にならないのではないでしょうか。このことは、不登校の子供に対する対応で立証済みです。

文科省は、不登校特例校を整備し、不登校の子供たちがその実態に合わせて学べ、かつ従来のフリースクールでは得られなかった卒業証書や高校受験に必要な進路書類を発行できるようにしました。しかし、バイパスを通しただけでは、不登校を生み出す主流の学校教育の在り方自体を変えることにはならず、学校におけるいじめ、不登校、子供の自殺は増え続けています。

障害者権利条約24条の条文解釈とも言える一般的意見4号の手引きでは、インクルーシブ教育とは、全ての生徒が最善の状況で質の高い教育に完全に参加できるようにするために教育の在り方を大きく変えることを指すとしています。

本検討会議の中でも、野口委員が、教員研修、養成などは特別支援教育のみに関わることではなく、義務教育そのものに関わる、そのため、本検討会議のみでなく、例えば中教審の義務教育の在り方に関する会議などにおいてもインクルーシブ教育をどう今後進めるかについて検討する必要があるのではないかと提案されています。

大臣、行動面や学習面で困難を抱える児童生徒への個別支援も必要ですが、教員の働き方改革を含め、学校教育全体の議論の中でインクルーシブ教育の検討を進めるべきときではありませんか。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

文部科学省といたしましては、本年3月の検討会議報告では、個別の支援というものに、支援の前に、小中学校等の通常の学級の中ででき得る支援策として、多様な児童生徒が在籍していることを前提とした分かりやすい授業づくりですね、これを進めることや、ICTを含む合理的配慮の提供、特別支援教育支援員の配置及び専門家との連携、さらには、校長のリーダーシップの下に学級担任等を支える校内支援体制の充実を図ることなど、学校全体で組織的に対応することが示されております。

こういうことも大変重要なのですが、今議員の方から御指摘のありました、学校の先生は余りにも忙し過ぎて、子供たちを余裕を持って見るそれだけの余裕がないのではないかというお話でございました。学校におけます働き方改革、これもしっかり進めていかなければいけないと思っております。

やはり、文部科学省では、令和元年の給特法改正を踏まえまして、勤務時間の上限等を定める指針を策定するとともに、教職員定数の改善や支援スタッフの充実、学校DXの推進などを総合的に進めてきたところでございます。

令和4年度実施の勤務実態調査の速報値によりますと、前回と、前回調査と比べて在校等時間が減少しておりまして、成果が着実に出つつあるものの、依然として長時間勤務の教師も多く、引き続き取組を加速させていく必要があると認識をしております。このため、先般、中央教育審議会に対しまして質の高い教師の確保のための環境整備について諮問をしたところでありまして、更なる働き方改革の在り方を含めまして総合的に審議いただくこととしております。

私といたしましては、教育の質の向上に向けて働き方改革、処遇の改善、学校の指導、そして運営体制の充実を一体的に進めてまいりたいと考えております。

以上です。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○舩後靖彦君

代読いたします。

支援を必要とするのは障害児だけではありません。

以下、準備した文書を代読します。

子供の数が減っているのに、発達障害の可能性のある子、特別支援を受ける子供、不登校の子供が増えていることは、今の学校がしんどい、いづらい場所になっていることの表れです。困っている子供をカテゴライズして個別の政策で、個別の施策で対応するのでは、もう対処し切れないのではないでしょうか。

教育にもっと大胆にお金を掛けて、教育の質と、教員の数と質を高め、障害のあるなしにかかわらず、誰もが安心して地域の学校で学ぶインクルーシブ教育を進めることは、差別のない、全ての人を受け入れるインクルーシブな地域社会の基礎となり、結果的に費用対効果の高いものになるとユネスコのサマランカ宣言でも言われています。

通告はしておりませんが、この点について改めて大臣の考えをお聞かせいただければ幸いです。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

文部科学省は、インクルーシブ教育システムの促進のために、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごすための条件整備と一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整理、これを両輪でしっかりと取り組むことが大事と考えております。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

特別支援学校と小中高校の一体的運営はインクルーシブ教育を進めるためとしています。

しかし、報告書では、現在の多様な学びの場を維持しつつとあり、あくまで特別支援学校と通常の学校という二つ以上の仕組みを前提にしており、障害者権利条約が言う全ての子供が必要な配慮を受けて同じ場で学ぶインクルーシブ教育は想定されていません。

確かに、モデル事業の構想では、現在取り組まれている特別支援学校と通常学校との交流、共同学習をより日常的に場を統合して行い、それぞれの教員がその専門性を生かし、より柔軟な教育課程、指導体制の下で協力して指導に当たるとなっており、現状の年に数回、行事のときだけの交流に比べたら、格段に交流、共同学習は進むと期待されます。

しかし、一緒に過ごすことがいいなら、なぜそもそも学籍を分けた上で交流、共同学習を進めるのでしょうか。せっかく一緒の場で学習をしても、籍を分けることで障害のある子はお客さん扱いとなってしまいます。

最初から同じ学級で学校生活を送り、必要な配慮を得て一緒に授業を受けるインクルーシブ教育に向けての制度改革と条件整備をお願いし、質問を終わります。