2021年5月13日 参議院文教科学委員会質疑、反対討論(国立大学法人法改正案=反対の立場から問題点を指摘)
○舩後靖彦君
れいわ新選組、舩後靖彦でございます。本日もよろしくお願いいたします。
十一日の本委員会での参考人の皆様からの御意見を踏まえ、私は本法案に対し反対の立場から質問いたします。
では、早速質問に入ります。
代読いたします。
まず、本法案の根幹にある問題について質問いたします。
さきの参考人質疑で、京都大学の駒込教授が二〇〇四年に国立大学が法人化されて以来の変化を端的にお話しくださいました。要点を紹介しますと、学長を始めとする少数の役員と一般の教職員や学生との亀裂が深まっている、学生のニーズではなく政府あるいは経営のニーズによって研究、教育分野がスクラップ・アンド・ビルドされる事態が相次いでいる、研究、教育、医療の公共性や地域貢献という観点から大切な組織や部門が、採算に合わない、コストカットが必要という経営理由で潰されていくということでした。
そうした中で、二〇二二年から始まる第四期中期目標期間では、国は中期目標大綱を示し、各大学法人がその特性に応じて選択し、中期計画の原案を作るとされています。しかし、大綱の中から必ず中期計画に含めるべき項目が指定されており、あらかじめ方向性が決められているのでは大学の自主性が発揮できるのか疑問です。
さらに、今回の中期計画への評価指標の導入で、その達成状況が予算や人事に影響する懸念はないのでしょうか。定量的な指標を重視し、その指標をクリアした大学や部門の予算を増やしたり特例を認めたりする仕組みは、研究、教育と医療の現場をゆがめていくと思います。
各大学法人が自由に中期目標を作成し、かつ財政措置が担保され、中期目標期間終了後の業務の改廃を自ら決定できるのであれば問題はないとは存じます。しかし、資料一にもありますように、日本の高等教育への公財政支出割合がOECD諸国でワースト一位です。この上、運営費交付金を定率で減らされ、国立大学法人が資金の自己調達を強いられる経営環境に突き進むおそれがあります。そうなりますと、お金が稼げないとして文系や基礎科学の分野が不採算組織と判断され、改廃に利用されるおそれがあると考えます。
大臣、この点について御見解をお聞かせください。
○政府参考人(伯井美徳君)
まず、第四期中期目標期間に向けての中期目標大綱でございますが、これは国が総体としての国立大学法人に求める役割や機能を明確化する観点から大綱を示すということとしておりまして、大綱においては国立大学法人が果たすべき役割や機能に関する基本的方針を示すにとどめ、各法人はその中から特に重視するものを選択したり追記、修正した上で中期目標の原案を作成するというふうな仕組みでございます。引き続き、法人の自主性、自律性を尊重した仕組みとしてこれを検討してまいりたいというふうに考えております。
また、指標は各法人が作成した中期計画の達成状況を可視化し、適正な業務運営を担保するためのものでございまして、運営費交付金における成果に係る客観、共通指標にリンクさせることは考えておりません。加えて、学長による人事権の行使を強化することを目的とするものでもございません。
さらに、学問分野の多様性を強化していくというのは重要であるというふうに考えておりまして、各法人が例えば特定の学部、研究科等の収支のみを評価指標として設定し、それを不採算組織であることというふうなことをもって当該組織の改廃につながるようなことは想定しておりません。
○委員長(太田房江君)
舩後委員が質疑の準備をしております。
速記を止めてください。
〔速記中止〕
○委員長(太田房江君)
速記を起こしてください。
○舩後靖彦君
代読いたします。
先日の参考人質疑の資料の中に、監査項目にキャッシュフロー計算書の公開を見たのですが、これは投資家向けのものであり、想像できることは、大学を企業化したいのではないかと思います。この点について大臣の御見解をお聞かせください。
○政府参考人(伯井美徳君)
国立大学法人が各ステークホルダーに対して、その信頼性を確保していく上で一定の会計、財政についても公表をしていくということは重要であるというふうに、財務内容に関する事項を一定程度公表していくことは当然重要であるということでございまして、必ずしも投資家向けではなく、国立大学が様々なステークホルダーとの関係で信頼を得ながら自主的に経営を改善していく事項としてそうしたことも求めていくと。
現在、国立大学法人の会計基準の見直しということも行っておりまして、国立大学法人の特性に即しながらも、できるだけ見える化が図れるような仕組みというのも検討しているところでございます。必ずしも投資家を目的としたものではございません。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
次に、学長に対する学長選考・監察会議、監事のチェック機能についてお尋ねします。
今回の法改正の趣旨は、学長選考・監察会議から学長を外し、学長の職務についてチェック機能を同会議に持たせるという内容です。
学長選考・監察会議は、学外者を含む経営協議会からと、学内者による教育研究評議会から同数の委員が選ばれることになりますが、どちらもその議長は学長です。経営協議会のメンバーは全員、教育研究評議会のメンバー大半もそれぞれ学長が任命することになっています。これでは会議に対する学長の影響力は排除できないのではないでしょうか。
また、今回の改正で、学長に対する牽制、チェック機能を持たせています。しかしながら、監事は慣例として学長の推薦があっても、文科大臣が任命します。学長選考・監察会議のメンバーも大半が学長の任命という構造になっています。果たして、学長の影響力が温存された構造で任命される監事と、学長選考・監察会議に学長に対する厳正なチェック機能が働くのか、極めて疑問です。更に言えば、逆に学長を補佐、監査し、大学のガバナンスに重要な役割を果たすべき監事、若しくは学長選考・監察会議の委員に対するチェック機能がないように見えます。
大学が社会の公共財としてその役割を果たすために、学長、法人執行部に対する公正なチェックをする仕組みが必要です。
この点について、大臣の御見解をお聞かせください。
○国務大臣(萩生田光一君)
現行法は学長選考会議の構成員となる者を選出する経営協議会及び教育研究評議会の議長はいずれも学長であり、必ずしも学長の影響力を排除する仕組みとはなっていません。
一方で、現行制度では、学長選考会議が自ら学長解任の議論を始めなければチェック機能が働かない仕組みですが、今回の改正により、文部科学大臣が任命する監事が学長に不正行為や法令違反等があると認めるときは、学長本人及び文部科学大臣への報告に加え、学長選考・監察会議にも報告することとなり、チェック機能が迅速に働くようになることが期待されます。
また、学長選考会議が学長の職務の執行状況の報告を求める規定を設けることにより、学長選考会議はなぜ報告を求めないのかを問われる立場になります。
監事については、法改正により二名のうち少なくとも一名は常勤監事とすることにより、全ての国立大学法人で監事の行う監査業務が一層充実したものとなるように必要な体制を確保することとしております。
この度の改正により、監査体制の強化が実効性のあるものとなるよう、各法人が監事をサポートする体制を整備するための支援策や監事に対する研修等の育成方策について関係団体とも協力しながら検討してまいります。
監事の日常業務に対する服務監督は国立大学法人が行うこととなりますが、万が一、監事が監査を行うことが難しいと判断される事態が生じた場合には、当該法人の意向も踏まえながら最終的には任命権者である文部科学大臣が判断を行うものと考えております。
また、学長選考会議については、今後、ステークホルダーに対する説明責任が果たされるよう公表内容を充実することなど、会議の透明性を確保する必要性をお示しすることも検討しています。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
次に、学長、大学執行部に対してリコール制度を認めるべきではないかという点について質問いたします。
昨年三月に公表された国立大学法人ガバナンス・コードにより、教職員らが学長候補者を投票する意向投票の効力は否定されました。つまり、学内のボトムアップ式の意思決定を反映しなくてもいいルールにされてしまったのです。こうなると、何千人にも及ぶ学生、教職員の声を反映する回路がありません。外部委員を含む僅か十数名の会議のメンバーによって学長が選出される仕組み自体が非民主的ではないかと感じます。
大学によっては、教職員の一定割合の発議によって学長の解任動議、リコールを認める事例もあるようです。しかし、学長が真にリーダーシップを発揮するためには、大学構成員との間の信頼関係が欠かせません。ほかの先生方も御指摘されていますが、リコール制度を担保するなど、学長に対するチェック機能をより広く認めるべきだと考えます。
この点について、大臣の御見解をお聞かせください。
○政府参考人(伯井美徳君)
国立大学法人におきましては、学長の選考、解任の申出に係る手続や方法について、学長選考会議が自らの権限と責任において主体的に判断し定めるというものでございまして、同会議において検討すべきものということで現行制度はなっております。
学長選考に当たっていわゆる意向投票を行うことにつきましては、先ほどもございました、令和元年の学校教育法等の改正時の施行通知などにおいてお示ししているとおり、法の規定にのっとり意向投票によることなく、学長選考会議の権限と責任において適正に選考を行うべきものというふうに示しておりますが、これは、いわゆる、先ほども言いましたように、意向投票を行うことを禁止しているものではなくて、あくまで、その投票結果をそのまま学長選考会議の選考結果に反映させるなど過度にその投票結果に偏るような選考方法は適切ではないと考えておりますが、禁止されているものではないと、あくまで選考会議が自らの権限と責任において判断すべきものであるということを明確にしたものでございます。
また、いわゆるリコール制度などにつきましては、それぞれの法人において学長選考会議における議論に基づき自主的に判断され、現に実施されているところもございます。そうしたような制度の設計でございます。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
本法案の審議を通し、国立大学法人のガバナンス強化というのが、社会の期待に応えるためと言いながら、実は、政府、経済界の要請の中で行われてきたことを感じております。
教育研究機関である大学にガバナンス改革を持ち込み、政府の指針に沿った目標を定めて競争させる今の国立大学法人の在り方を根本から見直す必要があると申し上げ、質問を終わります。
◆反対討論
○舩後靖彦君
私は、れいわ新選組を代表し、国立大学法人の一部を改正する法律案に反対の立場から討論を行います。
本法案は、国立大学法人等の管理運営の改善並びに教育研究体制の整備及び充実等を図るため、学長選考会議から学長を外し、学長の職務執行の状況の報告を求める権限を付与し、その名称を学長選考・監察会議とすること、監事の体制を強化すること等の措置を講ずることを趣旨としております。
しかし、本委員会の質疑でも指摘されているとおり、委員の大半を学長が選ぶ体制は何ら変わっていません。学長選考の透明性、公平性を担保する仕組みにはなっておりません。また、監事も学長選考・監察会議の大半の委員も学長の意向を反映した人選となっています。学長の強力な権限集中に対して、学長選考・監察会議と監事の牽制、チェック機能が厳正に果たせるか疑問です。
そもそも、外部委員を含む十数名の選考会議に学長選考の権限を移譲し、教職員、学生の意向が反映される仕組みがないことは、大学自治において大いに問題であると考えます。
二〇〇四年の国立大学法人化以来、教育研究機関である大学には政府の方針に沿ったガバナンス改革が持ち込まれ、東大など上位大学に資金や人材が集まりやすい選択と集中の政策を進めました。しかし、日本発の論文数の国際シェアは中国や欧州勢に抜き去られました。上位大学が伸び悩むだけでなく、中堅大学も失速しています。
公共財としての大学に課せられた役割は、決して政財界の利益、関心に沿うことだけではありません。学術の発展と国民への還元をなすためには学問の自由を保障することが大切です。大学が企業経営のように成果、効率優先で競争させられている現状を改めるべきです。
大学の最大のステークホルダーである学生、教員が自由、自主的に学び、研究できる環境整備をすることこそ今の大学法人に必要ではないでしょうか。
本法案の小手先の改正ではこの間の国立大学法人の問題点を解決することはできないことを指摘し、討論を終えます。