2022年11月10日 参議院国土交通委員会質疑(港湾法改正案について)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。

木村英子委員に代わって、初めて国土交通委員会で質問をさせていただきます。

質疑に当たり、合理的配慮に御理解をいただいた委員長、理事の皆様、委員の皆様にお礼申し上げます。よろしくお願いいたします。

まずは、皆様に少しだけ自己紹介をいたします。

41歳でALSを発症し、全身麻痺で24時間の介助を必要としています。人工呼吸器を使っており、たんの吸引などの医療的ケア、胃瘻での食事など、生命維持のケアが必要です。さらに、人工呼吸器を装着するため、気管切開をして声が出せません。文字盤を使い、視線と瞬きで一文字一文字介助者に読み取ってもらい、コミュニケーションを取っています。また、顔の筋肉は僅かに動かせますので、チューブをかんでセンサーを通してパソコンを操作、文章を作ったり、音声読み上げソフトを使って文章を読んだりしています。本日の質疑も音声読み上げソフトで行います。聞き取りづらい部分があるかもしれませんが、御了解いただければ幸いです。

それでは、港湾法の一部を改正する法律案について質問いたします。まず、本法案に大きく関連する水素戦略についてお尋ねします。

水素戦略について、抜本的な見直しが必要と考えます。近年の技術の発達で、電化で対応できる分野は広がっています。かつては電化が難しいとされていた大型のトラックや鉄道の一部などでも電化が進みつつあります。また先日、EUはハイブリッド車を含むガソリン車の新車販売を2035年に禁止することを正式に決定しました。EUを始め世界では電気自動車への移行が急速に進んでいます。その一方で、水素を必要とする分野は縮小しています。国際再生可能エネルギー機関、IRENAも、水素は現在脱炭素化の代替手段がない用途に限って使用するのが最善と結論付けています。

日本は2017年、世界に先駆けて水素基本戦略を策定し、あらゆる分野で水素が利活用されるという水素社会の実現を掲げました。そして、毎年400億円から700億円近い予算を投じてきました。しかし、その7割をつぎ込んだ家庭用燃料電池、エネファームと燃料電池乗用車の普及は低迷しています。エネファームは、2030年普及目標は500万台ですが、現在の年間販売台数は4万、5万台で、このままだと目標の5分の1以下にとどまります。

燃料電池乗用車は更に悲惨です。

資料一を御覧ください。

経済産業省が2017年に発表した水素基本戦略概要によると、2030年の普及目標は80万台、2020年の目標は4万台となっていますが、2020年の実際の販売台数は761台と、目標の1%台です。このままでいくと目標には到底及ぶことができないのが明白です。全国各地に造られた水素ステーションもほとんど利用されていません。

政府の水素戦略の失敗は明らかです。それなのに、日本は水素社会という幻想から脱却できずに、水素のサプライチェーンの整備を大規模に推進しています。今回の港湾法改正もその一環です。

まずは、政府の水素戦略を根本から見直し、本当に必要な用途を見定め、その規模に応じた投資を行うべきだと思います。政府の考えをお示しください。

○政府参考人(南亮君)

お答え申し上げます。

我が国は、世界に先駆けて水素基本戦略を策定しまして、燃料電池自動車や定置用燃料電池の技術と導入に関しまして世界をリードしてきましたが、御指摘のとおり、政府の目標に比して足下の導入が進んでいない状況であります。その理由の一つはコストであり、水素の供給コストの低減が重要だと考えております。

追随するように各国が国家戦略を策定しまして水素導入に向けた動きが加速化する中、技術的にも追い上げが激しい状況でございます。しかしながら、依然として我が国は発電分野や液化水素の海上輸送、水電解装置といった新たなサプライチェーン上の技術等に関して強みを持っているということでございます。

そのため、各国が掲げる高い目標、近年のウクライナ情勢、我が国特有のエネルギー情勢を考慮しながら、カーボンニュートラル実現に向けた水素の役割等を改めて見直し、水素基本戦略の改定も検討していきたいと、そのように考えております。

その際、目標につきましては、国際協調の下設定されたものもあることから一律に見直すことは厳しいと考えておりますが、御指摘のとおり、政策資源を集中すべきという観点からは、予算や税を適切に配分してまいりたいと、そのように考えております。

特に、我が国が競争性を持つ技術を支援し、世界市場を獲得することで日本企業の成長につながるよう、技術開発の支援にとどまらず、海外展開や国際標準化に向けた取組を世界に先じて進めてまいりたいと、そのように考えているところでございます。

○舩後靖彦君

次に、経済の安定と安全保障上求められる水素エネルギー戦略の方向性についてお尋ねします。

ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー危機によって、化石燃料からの脱却を急ぐ動きが世界中に広がっています。特に、ロシアの天然ガスなどに依存していたEUは、2030年までに再生可能エネルギー電力の割合を69%に高める戦略です。

日本は現在、電気の七割を輸入の化石燃料に依存しています。そのため、化石燃料の価格や供給の変動によって日本の経済も大きな影響を受けてしまいます。現在の物価高も世界的なエネルギー価格の高騰が大きな要因です。また、エネルギーを輸入に依存している現状は、安全保障上も大きなリスクです。エネルギーの自給を高めるためにも、化石燃料依存から脱却し、省エネルギーと再生可能エネルギーをもっと推進すべきです。

水素についても、日本政府は化石燃料由来のいわゆるグレー水素、ブルー水素を優先してきましたが、これらは脱炭素化にはほとんど意味がありません。また、グレー、ブルー水素の大量輸入は、エネルギーの輸入依存度を下げることが重要となった今、それに逆行するものです。

日本が世界のグリーン水素ビジネスで大きな役割を果たせるよう、水素の戦略を見直し、再生可能エネルギーを利用した国産グリーン水素の供給を拡大するべきです。それがサプライチェーン整備などで努力を重ねてきた日本企業の実績を生かすことにもつながります。

現状、グリーン水素は非常に高いものの、今後、グリーン水素のコストは大幅に低下すると予想されています。自然エネルギーの拡大と低価格化、そして技術革新の成果です。これが、IEA、国際エネルギー機関を始め多くの研究機関の共通見解です。

グレー水素やブルー水素を利用するための港湾整備は間違った無駄なインフラ投資の上塗りになると私たちは考えますが、大臣の見解をお聞かせください。

○国務大臣(斉藤鉄夫君)

舩後委員、国土交通委員会で最初の御質問ということで、答えさせていただきます。光栄に存じます。

水素については、エネルギー基本計画において、カーボンニュートラルに必要不可欠なエネルギーと位置付けられております。舩後委員おっしゃるように、再生可能エネルギー由来の水素が最もいいというのは私も同感でございますけれども、しかし、水素社会に転換していく、この水素というのは、一つは燃料電池、これは車だけでなく今鉄道にも使われようとしております。そして、内燃機関にこの水素を使うという技術も今民間企業で研究開発されております。

この水素を使うという意味で、その使用量を増やしていかなくてはいけないというふうに我々は考えております。そのために、今後、海外から多くの水素等が輸入されることが想定されており、サプライチェーンの拠点である港湾においては水素等の受入れ環境の整備を進めていく必要があると考えております。

いずれにいたしましても、国土交通省としては、政府のエネルギー政策に沿って港湾における必要な対応を行ってまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

続いて、脱炭素に向けた政府の取組についてお尋ねします。

昨年、参議院でも全会一致で改正地球温暖化対策推進法を可決し、2050年までの脱炭素社会の実現を目標に掲げました。今回の港湾法改正でも、第一の目的として脱炭素化の推進が挙げられています。

私たち、れいわ新選組も、脱原発、グリーンニューディールを公約として掲げています。原発の即時廃止、そして2050年までのできるだけ早い脱炭素実現を目指しています。ですから、当然、脱炭素化の推進には賛成です。

問題は、脱炭素化の中身です。政府の脱炭素計画全体の見直しが必要です。衆議院調査局の法案参考資料によると、CO2排出量の約6割を占める発電所、鉄鋼、化学工業などの多くが立地する臨海部産業の拠点、エネルギーの一大消費拠点となっている、そのため、港湾地域は、脱炭素エネルギーである水素や燃料アンモニアなどの輸入拠点となるとともに、これらの活用などによるCO2削減の余地も大きい地域であるとあります。

この港湾地域の脱炭素化の一環として政府が推進しようとしているのが、石炭火力発電所におけるアンモニア混焼です。しかし、現状のアンモニア混焼では石炭火力発電所から排出されるCO2はほとんど削減できないと国内外のシンクタンクやNGOが指摘しています。アンモニア混焼は、石炭火力発電所の延命措置にすぎません。その上、これらの水素やアンモニアは海外から船舶で運搬するので、輸送に大量の化石燃料を必要とし、大量のCO2を排出します。とても脱炭素化と言える代物ではありません。

このような脱炭素とは到底言えない技術やインフラに大規模投資を行うことは、本当に必要な脱炭素技術とインフラへの投資を阻害してしまいます。これは、世界で急速に進む産業構造の転換から日本だけが取り残されるという事態を招きかねません。IEA、世界エネルギー機関は、再生可能エネルギーなどクリーンエネルギーへの投資は2030年に世界で年間六百兆円以上になると試算しています。この巨大な市場で日本の産業や技術が競争力を持つことができるのか、ここ数年が勝負です。政府は、必要な技術やインフラを見極め、戦略的に投資することが求められます。

先ほどの資料でも、我が国においても、船舶燃料などの脱炭素化への対応や環境に配慮した港湾への転換を図らなければ、荷主や船社から選ばれず、競争力を失う事態にもなりかねないと危機感が示されています。それならば、なおさら石炭火力発電所の延命にすぎないアンモニア混焼は見直すべきではありませんか。政府の考えをお示しください。

○政府参考人(南亮君)

お答え申し上げます。

アンモニアですが、アンモニアは燃焼させてもCO2を排出しないカーボンニュートラルに向けて有望な燃料だと、そのように考えております。

発電部門では、2020年代後半にも石炭火力へのアンモニア20%混焼の商用化を予定しております。2030年には、年間約300万トンの燃料アンモニアの国内需要、これによるCO2削減効果として年間約600万トンを想定しているところでございます。その上で、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、20%混焼にとどまらず、混焼率の更なる向上や将来的な専焼化、さらには、船舶ですとか工業炉での活用、そういったものに向けた技術開発を進めているところでございます。

委員御指摘の現状のアンモニア混焼では石炭火力発電所から排出されるCO2はほとんど削減できないという点につきましては、製造時にCO2を処理していないアンモニアを活用する場合への御指摘と、そのように認識しておりますが、2030年度温室効果ガス排出削減目標や2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、アンモニアの大量供給、大量利用が不可欠でございまして、このため、アンモニアの供給量拡大、価格低下などにつながる需要創出がその社会実装の第一歩として必要であります。そのため、まずはそのアンモニアの由来を問わずに活用を進めていく方針を取っております。

他方、この方針、永続的にCO2を処理していないアンモニアを使い続けるということではございません。インフラ整備や技術開発、コスト低減などの進捗状況を見つつ、速やかにアンモニア全体のこのクリーン化を進めてまいりたいと、そのように考えているところでございます。

○舩後靖彦君

代読します。

終わります。ありがとうございました。

※なお、この日、舩後は「反対討論」を行う予定でした。しかし体調急変により、午後の委員会を離席せざるを得なくなりました。当日行う予定だった反対討論も掲載いたします。

私は、れいわ新選組を代表し、港湾法の一部を改正する法律案に反対の討論を行います。

現状の「石炭火力発電所における20パーセントアンモニア混焼」では、CO2削減効果はほとんどありません。アンモニアをちょっと燃やすついでに、石炭を大量に燃やす。これは石炭火力発電所の延命措置に過ぎません。その上、海外から水素やアンモニアを船舶で運搬するなら、輸送のために大量の化石燃料を必要とし、大量のCO2を排出します。「脱炭素化」といえる代物ではありません。

さらに、水素・アンモニア発電はコストが高いと考えます。国の「発電コスト検証ワーキンググループ」の報告では、アンモニア20パーセント混焼発電のコストは、1キロワットアワーあたり、20円を超えています。水素・アンモニア政策に関する資源エネルギー庁の資料でも、「当面は既存燃料よりも割高であり、需要家による大規模・安定調達に向けた展望が見込めず、大規模商用サプライチェーンの整備への投資の予見性が見込めないといった課題がある」と認めています。実用化につながらないのではないでしょうか。

今回の港湾法改正も、「大規模商用サプライチェーンの整備」の一環ですが、家庭用燃料電池と燃料電池乗用車の普及は、目標を大きく下回っています。水素ステーションなどの利用も低迷しており、投資は全く回収できていません。にもかかわらず、高くて脱炭素化にも意味がない水素やアンモニア発電のために、巨額の投資をしようとしている。また国費が無駄になるのではないですか。目先だけ、大手電力会社のために石炭火力発電所を延命させようという政策になっています。大きなビジネスリスクと言わざるを得ません。

そもそも、政府は原発や石炭火力発電を維持したいがために、再生可能エネルギーに投資せず、エネルギー効率化も進めてきませんでした。その結果、グリーン水素の開発も遅れています。欧州がグリーン水素開発で先行しているのは、自然エネルギー開発を重視し2030年には電力の7割近くを供給するまでを見込むほどの状況になっているからです。既に、発電コストも日本の半分以下になっています。

政府の「水素戦略」そのものが間違っているから、脱炭素化、エネルギー安全保障の確立という重要課題の解決に大切な役割を果たすグリーン水素の国内生産という点で、日本は欧州各国、中国などの後塵を拝しています。

今すぐに、エネルギー政策全体の見直しと、水素・アンモニア戦略を練り直すことを求め、反対討論といたします。