2023年4月25日 参議院文教科学委員会質疑(私立学校法改正案)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。本日もよろしくお願いいたします。

2019年に改正された現行私立学校法は、理事長、理事、評議員の選任、解任規定が一切なく、理事長、理事会をチェックする者をチェックされる側の都合の良い人間で固めることが容易にできてしまい、理事会の専横、暴走を止める仕組みがありませんでした。このため、日大、東京医科歯科大などで、理事、役職員による背任や贈収賄事件、不正入試、脱税などの法令違反が起きてしまいました。

こうした不祥事を受け、理事会、評議員会、監事の権限を整理し、私立学校の特性に応じた形で建設的な協働と相互牽制を確立するという本法案の方向性に賛成いたします。

しかしながら、本改正案が策定されるまでの紆余曲折からは、一般の公益法人並みのガバナンス強化を求める政府、ガバナンス会議側と、教育研究機関としてほかの公益法人とは異なる独自の役割を自認する私立学校側とのある意味妥協の結果、ガバナンス体制の改革において不十分な点、また懸念すべき点が残ったことが参考人質疑の中からも浮かび上がってまいりました。以下、そのような点について質問いたします。

現行法では、理事長、理事会へのチェック機能が働かず、そのために、一部の法人ではありますが、不正行為、法令違反の不祥事が起きてきたわけで、学校法人のガバナンス改革は必要です。しかし、学校法人のガバナンスとは、つまり学校法人の業務執行体制、経営体制の問題であり、今回の法改正は、その体制、組織を透明性がありチェック機能が働くものにしていくことと存じます。

一方で、法人が設置している公教育機関としての私立学校、大学の教学に関する規律のマネジメント、教育や研究の自主性に関しては、教育基本法、学校教育法で規定されており、先日の丹羽参考人の御意見にもありましたとおり、今回の法改正によって直ちに理事会や監事の業務が及ぶとは考えられないのではないでしょうか。

資料一を御覧ください。

2019年の私立学校法改正における政府答弁では、私立学校、大学のマネジメント、教学面の事項は、学校教育法にのっとり、学長、校長が行うものであり、理事会が大学において行われる教育研究の個別の内容について決定できる権限関係とはなっていないと、その独立性が担保されています。

しかし、今回の改正案の衆議院文部科学委員会の審議の中で、茂里私学部長は、理事会の職務とされる学校法人の業務に、法人が設置する学校の業務を含む、教学面についても、理事会がその権限と責任の下、最終的な決定を行うことがある、また、監事の職務に関しても、教学面についても学校法人の業務として監査の対象となると、2019年の政府答弁に反した答弁をされています。

この見解は、公教育機関としての私立学校、大学を所管する文部行政の見解としては大変問題があります。

丹羽参考人は、私立学校は、学校教育法に規律されており、建学の精神の名の下に設置者が自由に教育を行うことができるわけではない、自由に行いたいのであれば、公教育機関ではなく、私塾のような形で行えばよい、したがって、設置者といえども公教育機関としての枠組みを侵すことはできない、憲法、教育基本法、学校教育法によって規律される学校の設置であり、その法的枠組みを超えることになれば、それは学校法人といえども不当な支配に当たることとなるとおっしゃっています。

ましてや、監事は、理事会のチェック機関であって、大学、学校の教学面を監査対象とするのは筋違いであり、そもそも教育研究の中身をチェックする能力を求められてはいません。

私立学校、大学の設置者としてふさわしい私立学校法人の管理運営体制を図ることと、私立学校、大学の教学に関するマネジメントは、別の法律、枠組みで行われています。

もちろん、学部や学科の新設、改組など、学校法人としての経営判断が必要な大掛かりなことまで大学のみで決定できるわけではありませんので、理事会との協議は必要です。

しかし、理事会、監事が教学面に介入することも可能と取れる茂里私学部長の答弁は、今までの文科省の見解をも飛び越しており、修正を求めます。

○政府参考人(茂里毅君)

答弁申し上げます。

学校教育法におきましては、校長は校務をつかさどり、所属職員を監督するとされ、学校における教学面の事項について職務権限を有する一方で、私立学校法におきましては、理事会が学校法人の業務を決定するとされているところでございます。この学校法人の業務とは、学校法人が設置する私立学校の業務を含む学校法人の全ての業務を意味しているものと解しているところでございます。

したがいまして、教学面につきましては、まずは校務に関する決定権を有する校長において意思決定が行われることになりますが、最終的には、法人運営の最終的な責任を有している理事会が、教学側の自主性を十分に尊重しつつ、その権限と責任の下で必要な決定を行うこととなるものと考えております。

この点は、現行制度におきましても、また今回の改正後においても変わるものではなく、法人側と教学側とは法律に基づく相互の役割分担を理解し、協力し合いながら学校運営を行っていくことが重要だと考えております。

また、私立学校におけるいわゆる教学的な面と経営的な面とは密接不可分のものでございます。加えて、学校法人が学校の設置管理を行うことを目的として設置される法人であることに鑑みれば、監事の業務は経営面のみに限定されるものではないと考えております。

すなわち、教学的な面につきましても、学校法人の経営に関する問題である以上、学校法人の業務として監査の対象となりますので、寄附行為で定める監事の職務が教学的な面に及ぶということも考えられるところでございます。

ただし、これはこれまでも答弁申し上げてきましたが、個々の教員の具体的な教育や研究のそういった活動にまで立ち入ることは想定されていないところでございます。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○舩後靖彦君

代読いたします。

教育研究の自主性は守られるのですね。大臣、御見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

今、茂里部長からもお話ありましたけれども、やはり個々の教員の教育の研究の内容にまで立ち入るということは適当ではないし、ないということでございます。

○舩後靖彦君

私立学校、大学は公教育機関であり、その教育研究内容においては教育基本法、学校教育法にのっとって行うものであり、設置者である学校法人であっても恣意的な介入は許されないと考えます。まして、大学は教育基本法において高度な自律性、自主性を認められており、理事会、監事が学校法人の業務として安易に踏み込むことはあってはならないと申し添えて、次の質問に移ります。

本改正案によって、学校法人に公認会計士又は監査法人による会計監査が導入されることになり、大臣所轄学校法人は必置とされました。学校法人では、監査法人と監査契約する一方で、経営に関するコンサルティング業務契約をしている事例が見られます。

資料二にありますように、公認会計士監査が導入されている国立大学法人、公立大学法人では、子法人を含む同一の監査法人が監査とコンサルティング業務を同時提供することは公認会計士法と同施行令で禁止されています。それは、経営に関するアドバイスをしながらそれを監査するという立場に立つと、被監査法人の財務諸表や、適切に作成されているかどうか疑義が生じるからであり、監査の透明性と独立性を担保するために被監査法人の経営判断に関わることを防止する必要があるからです。

しかし、学校法人はそもそも会計監査人を置くことが義務でなかったため、公認会計士法施行令の中で禁止対象と明記されていません。公認会計士法は文科省の管轄ではありませんが、大臣所轄学校法人は会計監査が必置となる以上、国立大学法人、公立大学法人と同様、大学法人においても監査法人とその子法人が監査とコンサルティング業務を同時提供することを禁止する法令整備を早急に行うべきと存じます。

そして、法改正の趣旨を学校法人に通知する際、監査とコンサルティング業務を同時提供することの禁止についても盛り込むべきと存じますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(茂里毅君)

お答え申し上げます。

公認会計士法におきましては、公認会計士は、規定する大会社等から非監査証明業務により継続的な報酬を受けているような場合には監査証明業務を行ってはならないとされているところでございます。また、監査法人につきましても同趣旨の規定が置かれているところでございます。

このような規制を学校法人に課すことにつきましては、学校法人には様々な規模の法人が存在すること等から、学校法人にとりまして過度な負担となる可能性や、あるいは公益法人や社会福祉法人も当該規制の対象となっていないことも踏まえながら、慎重な検討が必要だと考えております。

なお、御指摘ありました会計監査人の独立性を害するような監査証明業務と非監査証明業務の同時提供が望ましくないことなどにつきましては、各種の機会を通じて周知を図ってまいりたいと思います。

○舩後靖彦君

次に、本改正案の不十分な点として、理事選任機関の構成についてお伺いします。

ガバナンス会議の案では、理事の選任、解任は評議員会が行うとされていました。しかし、本法案では、理事選任機関を新設し、評議員会は理事選任機関を通じて選任に関する意見を述べたり、解任請求ができるとなりました。しかしながら、肝腎の理事選任機関の構成は寄附行為で定めるとされており、理事長や理事会がそのまま理事選任機関の構成員になることも可能です。

参考人質疑において、丹羽参考人は、理事については寄附行為で理事長を理事選任機関とすることも可能となっている、つまり、理事長だけを唯一の選任機関とすることもできてしまう、これでは今般の法改正の最大の課題が解決されない、理事長だけで決めることができる余地を残してはならない、複数のチャンネルでの選出が可能となるようにすべきである、特に大学法人については複数の選任機関を設けることが望ましい、評議員の選出についても同じことが言える、教員、職員、卒業生、有識者など、大学に関わる様々な声を聞くことができる仕組みが望ましいとおっしゃっています。

衆議院の附帯決議においても、「学校法人の理事の選任は評議員会の監視・監督機能を定期的に発揮させる重要な手段であることを踏まえ、各学校法人の理事選任機関に評議員を含めるなどの工夫により、理事会からの中立性を確保するよう周知を図ること。」とされています。

少なくとも、大臣所轄法人については、理事選任機関を理事長あるいは理事会のみとすることを禁止するという運用が必要ではないでしょうか。

○政府参考人(茂里毅君)

お答えいたします。

現行制度におきましても、理事の選任、解任は学校法人ごとに多様な方法で行われているところでございます。理事会が関係者から信任を得て安定的に学校運営を行う基盤となっていることなども踏まえながら、具体的な理事選任機関の取扱いにつきましては各学校法人の判断に委ねたところでございます。場合によりましては、理事長、理事会、評議員会や第三者機関などが法人の判断により理事選任機関となり得るものでございます。

今般の改正におきましては、執行と監視、監督の明確化、分離と、学校法人の多様性や独自性のこの双方のバランスを考慮し、理事選任機関を寄附行為で明確に定めるよう法定した上で、当該理事選任機関はあらかじめ評議員会の意見を聴かなければならないといたしました。

また、不正行為が仮にあった場合には、評議員による理事の解任請求を認めるなど、評議員会は諮問機関であるという基本的な枠組みの中で、可能な限り評議員会の監視、監督機能を強化したところでございます。

いずれにいたしましても、理事の選任に当たりましては、今ほど御指示をいただいたことなども踏まえながら、今般の法改正の趣旨を踏まえた適切な運用が全ての学校法人でなされるよう、文科省としてもモデル寄附行為の作成等に取り組んでまいりたいと思います。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

今回の改正案では、大臣所轄学校法人などにおいて、学校法人の基礎的変更に係る事項、任意解散、合併や重要な寄附行為の変更においては、理事会の決議に加え、評議員会の決議も必要とされました。こうした重大な変更はそう頻繁に起きるとは考えにくいですが、少子化に伴う大学附属学校の募集停止や合併も最近珍しくありません。理事会と評議員会の意見が異なる場合、学校法人としての意思決定をどのように行うことになると想定しておいででしょうか。

○政府参考人(茂里毅君)

お答えいたします。

理事会の決定とともに評議員会の決議を必要とする事項につきましては、理事会と評議員会の決議が異なる場合は学校法人としての意思決定が成立しないということになります。

今回の改正は、理事会と評議員会の対立を意図するものではなく、理事会と評議員会が相互に牽制し合いながらも建設的に協力し、充実した納得感のある学校法人運営を目指すものでございます。その上で、双方で丁寧な説明を尽くしてもなお意見が分かれた場合の議論の方法、その後の手続等につきましてはあらかじめ明確化しておくことなどにより円滑な学校法人運営に資することが考えられます。

御指摘のありました点なども踏まえながら、文部科学省といたしましても、本制度の具体的な運用に当たりまして、モデル寄附行為の作成等にしっかりと盛り込んで取り組んでまいりたいと思います。

○舩後靖彦君

今回の法改正の主眼は、現行法では理事長、理事会をチェックする者をチェックされる側の都合の良い人間で固めることが容易にできてしまい、理事会の専横、暴走を止める仕組みがないことを正すことにあったはずです。しかしながら、本法案では、理事、理事会が評議員総数の2分の1までを選任することを可能とし、さらに、理事の親族など特別利害関係人を評議員総数の6分の1まで認めています。これでは、総数の最大3分の2までを理事会の意向を酌んだ人物とすることが可能になってしまい、評議員会が監視、監督の役割及び牽制機能を発揮できません。

規模が小さな学校法人では、そもそも評議員会の構成員数が限られていますので、3分の2でも2分の1でも、実質的な人数差は余りありません。しかし、人数が多い大臣所轄学校法人においては、理事会が選任する評議員と理事の特別利害関係人である評議員の合計が評議員総数の2分の1を超えないようにするという運用を施行通知などで求めるべきと考えますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(茂里毅君)

お答えいたします。

今回の改正におきましては、選任する主体に着目し、理事、理事会が選任する評議員の割合を2分の1までとするとともに、選任された評議員の身分等に着目し、職員評議員が3分の1まで、親族等評議員が六分の一までとする仕組みを導入し、評議員会に期待される牽制機能の実質化を図ることとしたところでございます。

さらに、今般の改正後の私学法におきましては、評議員に不正行為があった場合には監事が所轄庁に報告しなければならないこと、所轄庁が評議員の解任勧告を行うことが可能であること等についての規定を設けることで、評議員会が健全に機能していないような場合への対応手段が複数用意されているところでございます。

このように、人事に関する仕組みの整備のみならず様々な仕組みを設けることによりまして、これらが相まって評議員会のチェック機能の実効性を法的に担保できているものと認識しております。

なお、これらの制限につきましては、いずれも選任できる上限を定めたものでございます。必ずしも当該割合まで選任することを求めるものではない、そういったことにつきまして学校法人に周知を図りたいと思ってございます。

○舩後靖彦君

私立学校の不祥事の多くは理事会によって引き起こされてきました。その専横、暴走を止めるために、評議員会、監事によるチェックと牽制機能の強化は必要と存じます。

しかし、理事会も評議員会も、トップダウンで権力が一部に集中すると不祥事の温床となることは同じです。それを防ぐためにも、今後、本改正案が施行された後、私学をめぐる多様なステークホルダー、とりわけ私学を選んで通う学生、児童生徒の保護者、そして建学の精神、独自の校風と教育研究の中身を担保する教職員などの声を学校法人のガバナンスに反映させるボトムアップ方式の回路が重要になってくると考えます。

大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

理事会と評議員会が相互に牽制し合いながらも充実した納得感のある学校法人運営を目指すためには、評議員会が特定の利害関係に偏らない幅広い意見を反映することができる構成になるようにすることが重要だと考えております。

教学と経営との協調関係の構築を進める観点から、現行法におきましても、評議員には学校法人の職員を必ず含めなければならないこととされておりまして、このことは改正後におきましても変わるものではございません。

また、今般の法改正におきまして、児童生徒、学生や、また保護者の御意見の聴取等に関する具体的な仕組みが盛り込まれているわけではありませんけれども、例えば、評議員会に学生や保護者の意見が反映できるような人選というのも可能となっております。

いずれにいたしましても、学校法人の運営に当たりましては、児童生徒、学生を始めとする、学生を始め、保護者、教職員、卒業生等の学校法人を取り巻く幅広い関係者との対話により公共性を維持し、そして社会の信頼を得ていくことが必要であると考えておりまして、その趣旨につきまして、しっかりと周知徹底を図ってまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

本改正案が私立学校の多様性、研究、教育の自主性を維持し、かつ、公教育機関として社会の要請に応えるものとなることを期待し、質問を終わります。

ありがとうございました。