2023年4月27日 参議院文教科学委員会質疑(障害のある大学教員へのパワハラについて)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。

本日は一般質問ということですが、まず最初に、3月17日の委員会で質問した医療的ケア児の通学支援について、時間がなく確認できなかった点についてお尋ねします。

藤原初等中等教育局長は、特別支援教育就学奨励費において、通学に要する交通費としてタクシーによる送迎も支援の対象とし、その充実を図ってきたとお答えになりました。医療的ケア児の場合、親の付添いなしで通学するには看護師が同乗する必要がありますが、そのような形での運用例はありますか。

また、就学奨励費によるタクシーへの交通費補助は、通常学級在籍の障害のあるお子さんも対象になりますか。

○政府参考人(藤原章夫君)

文部科学省におきましては、障害のある子供の就学機会の確保のため、特別支援教育就学奨励費において、対象児童生徒等の通学に要する交通費としてタクシーによる送迎も支援の対象としているところでございます。

御指摘の医療的ケア児の送迎時に看護師が同乗する場合においては、タクシー利用に係る経費は特別支援教育就学奨励費において、また同乗する看護師に係る経費は医療的ケア看護職員配置事業において、それぞれ支援することが可能となっております。

このような文部科学省の補助事業を活用した医療的ケア児に対する通学支援につきましては、幾つかの自治体において取組が進められているものと承知をしております。

また、特別支援教育就学奨励費によるタクシー送迎に対する補助につきましては、小中学校の通常の学級に在籍する学校教育法施行令第22条の3に規定する障害の程度に該当する児童生徒も対象としているところでございます。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

次に、大学における障害のある教員に対するパワーハラスメントについてお伺いします。

文科省が令和元年度に行った委託調査、大学におけるハラスメント対応の現状と課題に関する調査研究の調査結果によりますと、大学におけるハラスメントの種類としては資料のようになります。

このうち、教職員から学生に対するセクシュアルハラスメントについて、令和4年11月22日付けの文部科学省高等教育局長通知、セクシュアルハラスメントを含む性暴力などの防止に向けた取組の推進についてが出ていることは承知しておりますが、大学などにおける教職員同士、教職員から学生に対するハラスメント被害に関する総合的な対応策についての文科省通知若しくは規定は存在しますか。

また、ハラスメント被害申立てから調査及び処分結果通知と公表までの期間はどのくらいが妥当と認識されていますでしょうか。

○政府参考人(池田貴城君)

お答え申し上げます。

委員御指摘の通知につきましては、教職員から学生に対するハラスメントだけでなく教職員間や学生間のハラスメントも対象となっており、セクシュアルハラスメントに限らず、その他のハラスメントも含め、その防止等について各大学における取組の確実な実施を促したものでございます。

また、この通知では、大学において相談を受けた場合には迅速に調査や被害者の保護及び行為者への措置を行うことが必要と考えており、当該、この通知におきましても、相談の受付から調査結果の取りまとめに要する期間の目安を学内規則等の文書に規定しておくべきことを示しています。こうしたことを踏まえ、各大学において適切に期間の目安を設定していただきたいと考えております。

文部科学省としては、引き続き、大学に対して、この通知も踏まえ、ハラスメントの防止のために必要な取組を確実に行っていくよう強く促してまいります。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

委託調査では、相談は学生と教職員で半々、最近はセクハラやアカハラよりパワハラ案件が多い。そして、教職員間のパワハラが増えている背景に、大学教職員の雇用形態が専任だけでなく、任期付雇用、非常勤など多様化していることが挙げられています。雇用形態の多様化、労働環境の不安定さが新たな権力構造を生じさせ、従来、学問の自由から派生する大学における自治意識、教員、研究者は自由で対等という意識が変容し、ハラスメントが起きやすくなっているといいます。

ここで、愛知県内の私立大学で起きた脳性麻痺の障害がある男性非常勤講師に対する同学部所属の男性教授によるパワーハラスメントの事例を紹介します。

2021年8月、非常勤講師が大学のハラスメント防止人権委員会に訴えた内容は以下の六点です。

1、教授は、非常勤講師を三年間続けたら専任教員にすると約束。そのため、2012年4月に同大学の非常勤講師として勤務したが、約束は果たされず、非常勤のまま。

2、教授は、専任教員にする約束を前提に自分のゼミを手伝うよう講師に求め、ゼミの曜日、時間と重なるほかの大学での講義を辞めるよう強要。講師は、他大学での非常勤講師を辞めざるを得なかった。

3、しかし、教授のゼミでの学生指導は全くの無償。その結果、講師は、他大学の講義で得ていた教育研究活動費と生活費を失い、研究の継続困難と生活困窮に直面した。教授は、ゼミの指導を講師に任せ、学外イベントに参加するために不在のこともあり、職務専念義務違反である。

4、例年、沖縄でのゼミ合宿の手配、現地での教育交流の準備の一切を任されたが、全て無償労働で、諸経費の負担も強いられた。教授は、講師に任せて、学生を置いて先に帰るという職務専念義務を怠った。また、居酒屋で現地学生に対するアルコールハラスメント事件を起こした。

5、講師が短大での非常勤講師に応募するため教授に推薦を求めたところ、教授は講師に障害があることを理由に断り、障害があるおまえが悪いと言った。自身のゼミ指導を任せている講師を推薦できないというのは、教育研究者に障害を持つ者は不要と考えているということであり、明らかに障害に基づく差別、人権侵害である。

6、講師が別の教授から受けたハラスメント被害について教授に対応を相談したが、我慢しろと言われた。その対応に納得がいかず、ハラスメント防止人権委員会のコーディネーターの弁護士に相談したところ、コーディネーターが教授にヒアリング調査の依頼をした。その晩、講師は教授から呼び出され、厳しい叱責を受けて深刻な精神的苦痛を受けた。

このように、教授という優位的地位と人事権を利用して、詐欺行為を働き、障害のある講師に対するパワハラ、障害者差別の言動を繰り返し、職務専念義務を怠ってきた教授に対して、講師は被害実態の把握と教授からの誠意ある謝罪と補償を求めて学内のハラスメント防止人権委員会に訴えました。

また、大学に対しては、障害者差別解消のための研修の充実強化、障害者に対するハラスメントの防止徹底を求めています。大学には研究、教育の自治があり、大学内でハラスメント、差別の防止の措置をとり、被害が起きた際は、相談、調停、加害者処分のための機関を通して学内で自主的に解決していくのが基本であると考えます。

文科省として個別の事案についてコメントする立場にないことは承知しておりますが、一般論として、教授が優位的地位を利用して不安定な身分の研究者に自分の本来業務を無償でさせたり、別の勤務先を辞めさせたり、また、障害や人種、性別や性自認によって評価を落とすということがあってよいとお考えでしょうか。大臣、いかがですか。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

ハラスメントや不当な差別というのは決してあってはならない、そう考えているところでございます。

職場におけますハラスメントにつきましては、労働施策総合推進法等の労働法制の中でその防止が義務付けられていることから、大学等に対しましてこれまでもハラスメントの防止についての通知を発出をいたしまして、制度の趣旨を周知してきたところでございます。

これらを踏まえまして、大学等におきましては、それぞれの自主性、自律性の下で、ハラスメントの相談窓口を設けるなど、労働法制に照らして適切に対応していただいているものと承知をしているところでございます。

文部科学省といたしましても、労働関係法令の趣旨、内容につきまして大学等に対して周知を行い、必要な取組を促してまいりたいと考えております。

舩後先生も御承知でございまして御紹介された私立大学の事例というのは、やはり、文部科学省におきましては詳細を把握しておりませんのでコメントは差し控えさせていただきたいと思っておりますが、お許しいただければと思っております。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

講師は、2021年8月、大学のハラスメント防止人権委員会に申立てを行い、委員会は、講師への聞き取りと教授への書面のやり取りの結果、22年4月、教授のパワハラを認定し、職員懲戒委員会に送付しました。

しかし、無償労働に関しては認められませんでした。しかも、懲戒委員会で譴責処分が出たのは1年後の23年3月31日、当該教授が定年退職を迎える日でした。余りにも遅過ぎる処分に、教授が定年退職を迎える日まで意図的に引き延ばされたのではないかと、講師は学内懲戒委員会の在り方に不信感を示しています。

実際、この大学では、職員及び学生の不祥事に対する処分は、早ければ2週間、遅くても2か月で出されています。この講師が誤って送ったメールで被害を受けたと同学部の准教授と職員からハラスメント被害を訴えられたときは、ハラスメント防止人権委員会から確認調査を受けることもなく、1か月で厳重注意処分が出されました。

その一方、この講師は、ほかの教授から授業のこま数を減らすよう圧力を掛けられたり、研究の能力がない、障害者施設に入っておとなしくしていたらどうだなどと差別的言動を繰り返されてうつ病を発症したことについて、2018年11月にハラスメント被害を申し立てましたが、懲戒委員会から譴責処分が出たのは19年6月と、半年以上掛かっています。

もちろん、処分は教職員の身分に関わることであり、慎重に検討されるべきではあります。しかし、加害者が学部長や学校法人の評議員である場合、懲戒委員会における再審査の要望に応える一方で、この講師が訴えられた際はハラスメント防止人権委員会での確認調査すらなく処分が出されるなど、その対応には不透明さがあります。

東京大学大学院で准教授と助教による大学院生3人に対するアカデミックハラスメントが認定されましたが、助教は懲戒処分の審査が始まる前に退職し、処分の対象にならず、准教授も停職2か月の処分発表まで2年以上掛かったという報道もありました。大学院生は、被害を受け止めてもらった処分結果については評価しつつも、進捗状況を教えてもらえず、結果公表までが長過ぎると話しています。

このように、ハラスメント被害に対する相談、調停機関、懲戒機関が存在していても、その実効性と透明性には課題があります。

この非常勤講師の例を参考にするならば、大学内で権力を持つ者に都合のいい運用となりがちなこと、大学内でのパワハラは企業における上下関係や雇用形態の差などと同じ構造の中で起きるが、大学の自治や学問、研究の自由など、一般企業とは異なる文脈があり、より複雑で見えにくいこと、学内の委員会では教員、職員が兼任で対応することになり、公平性、中立性を担保するのが難しいこと、障害者、外国人、女性、LGBTなどに対するハラスメントは、単なる上下関係によるパワハラでなく、複合差別、交差差別の視点を持った、より専門的な相談、調停の人材が必要なことなどの課題が挙げられます。

そこで、文科省として、令和4年11月22日の通知で示した対応方策を基に、各大学での取組、体制整備の状況に関する調査、若しくはフォローアップが必要と存じますが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

大学におけますハラスメント対応過程におきまして実効性や透明性を高めることは重要と認識をしておりまして、今、舩後先生おっしゃいましたように、令和4年11月に発出しました通知におきましても、学外の第三者窓口の設置や関連分野の専門的な知識を有する職員の配置等による相談体制の整備、それと、事案の関係部局から独立して第三者や関連分野の専門的な知識を有する者を含めた調査機関の設置など求めているところでございます。

一方で、令和2年度におきましては、全ての学生、教職員が相談できます学外機関を活用した相談窓口を設置をしている大学は21.5%、学内の調査、対策機関に第三者を含める等の取組を実施している大学は45.2%となっております。

文部科学省といたしましては、大学における好事例の周知や、また本通知を踏まえました大学の取組状況の調査等によりまして、更なる取組の充実をしっかりと図ってまいります。

以上です。

○舩後靖彦君

私も幾つかの大学で特別講義を行っていますが、ハラスメントを受けたことがあります。それだけに、この非常勤講師の苦しみ、悲しみがよく分かります。障害者が高等教育を受け、さらに高等教育機関での研究、教育を目指すとき、この非常勤講師が受けたハラスメントや差別が繰り返されないよう、ハラスメント防止と救済の一層の推進をお願いして、質問を終わります。

ありがとうございました。