障害のある労働者に対する労災認定基準に対する質問主意書を提出しました
障害のある方から相談をきっかけとして、舩後靖彦は表題の通り、障害のある労働者に対する労災認定基準に対する質問主意書を提出し、政府から答弁を得ました。
質問主意書の冒頭に記載しました通り、障害のある労働者に対する労働災害の対応については、不十分だと考えております。
何らかの障害のある労働者は年々増え続けており、民間企業では、18年連続で過去最高を更新しました。
しかし、雇用された後の労働環境などについては課題も多く、労働環境の整備が不十分だったり、遅れていたりするのが実態です。
障害のある労働者が安心して働けるためには、障害のある労働者に見合う労災対策が必要だという観点から、取り組みました。
質問主意書の提出にあたっては、相談者の方、障害のある労働者の問題に詳しい専門家や過労死で家族を失った遺族の方などにご尽力をいただきました。
この場をお借りしてお礼申し上げます。
第208回国会
※ 質問主意書とは
質問主意書とは、議員が国政全般について政府の考えを聞くことができるものです。通常、議員の質疑は、所属している委員会(舩後議員の場合は「文教科学委員会」)や、本会議での「議題(質疑のテーマ)」に制約を受けますが、質問主意書は一定のルールに基づけば、どんな分野でも、テーマでも、質問することができます。議員一人でも質問することができます。このため、少数会派の議員にとっても、政府の考えを問う手段として、有用とされています。(参考:参議院HP)
今回の質問主意書・政府答弁については、森 弘典 弁護士に解説文を寄せていただきました。背景や答弁の問題点、主意書の意義などを分かりやすくまとめていただいています。
「障害のある労働者に対する労災認定基準に関する質問主意書」と同質問に対する答弁書についてのコメント
森 弘典 弁護士による解説
1 質問主意書の背景─障害のある労働者がおかれている状況─
舩後靖彦議員ご指摘のとおり、障害のある労働者は年々増えており、募集、採用の場面だけでなく、雇用された後の労働環境が保障される必要性が高まっています。
2007年9月28日、我が国は「障害者の権利に関する条約」に署名しましたが、同条約の締結に先立ち、国内法の整備をはじめとする諸改革を進めるべきという障害のある当事者の意見を踏まえ、労働の場面では、2013年6月、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「障害者雇用促進法」といいます)が改正されました。
この改正により、①労働者の募集及び採用(障害者雇用促進法36条の2)、②採用後(障害者雇用促進法36条の3)について、事業主に障害のある労働者に対する「合理的配慮提供義務」が定められました。
しかし、現実には、「障害者雇用促進法」では、入口(採用)のところが「雇用率」として目に見える形で事業主に義務付けられ、雇用義務を達成できない事業主は納付金を徴収され、雇用義務を超えて多数の障害のある労働者を雇用する事業主には調整金等が支払われるため、事業主にとっても重視されていますが、入った後の雇用環境については、法律では、合理的配慮義務と言ってはいるものの、保障は不十分で、罰則がないことから、軽視されがちです。
これでは、障害のある人は、雇用される道筋は保障されてきたものの、雇用されて、かえって生命・身体・精神が危険にさらされるおそれがあります。企業は、雇用率を上げるため、障害のある人を雇用はするのですが、現実には、雇用環境が整わず(企業が障害のある人に応じた雇用環境を整えず)、障害のある労働者が退職していったり、労働災害に遭ったりするケースがあります。現状では、それは、労働災害申請、裁判等で表沙汰にならない限り、分かっていません。
舩後靖彦議員が提出された質問主意書は、このような現状認識の下、「障害のある労働者が安心して働けるためには、障害のある労働者に見合う労災対策が必要だという観点」からご質問なさったもので、舩後議員の政策である「Ⅷ 障害者雇用、福祉的就労に代わる制度設計」の「1、障害、病気等があっても社会参加し、働きがいのある人間らしい仕事に就き、経済的な自立を図れるよう職場環境の整備や合理的配慮の実現」に直結するご質問だと思っております。
2 質問主意書一に対する答弁について
以上申し上げたように、「障害者雇用促進法」で、事業者に「合理的配慮提供義務」が求められ、他方、厚生労働大臣は、合理的配慮の提供に関し、必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告を行うことができる旨、規定されていることから(障害者雇用促進法36条の6)、政府が「被災労働者のうち障害者であるもの・・・の件数、被災態様、被災原因」を調査する必要性は「障害のある労働者が安心して働けるため」に確実にあります。
にもかかわらず、政府は、答弁書で、「障害を有する労働者を含む労働者に対して、労災認定及び労働災害を防止するための施策について適切に措置を講じている」として、「現時点において、御指摘の『被災労働者のうち障害者であるもの・・・の件数、被災態様、被災原因』を調査することは考えていない」と答弁しています。
しかしながら、現在行われている「調査」等が、「労災認定」に「当たって」「必要に応じて、当該労働者が有する障害の程度、労働災害の発生状況及びその原因等について個別に調査を行っている」程度であったり、「労働安全衛生規則第97条の規定に基づき、労働者の障害の有無にかかわらず、労働災害の発生状況及びその原因等に関する報告を事業者に義務付けている」程度であったりするでは、障害の内容、「障害の程度」、「労働災害の発生状況」に応じた「原因」解明ができず、「障害のある労働者が安心して働」き、働き続けられる保障は全くありません。
3 質問主意書二に対する答弁について
政府の答弁にあるように「労災認定に当たっては、労働者に疾病の発症等について、業務に内在する危険が現実化したものであると認められることを要」するという見解に立ったとしても(いわゆる「危険責任説」)、舩後議員ご指摘のとおり、少なくとも、「『当該障害を有する労働者集団』にとって発病の危険がある業務に関する負傷、疾病、障害、死亡に支払われるべきであるという観点」からすれば、「障害を有しない労働者の基準に照らすのではなく、障害を有する労働者を基準として業務の過重性が判断されるべき」といえます。
政府の答弁は、「当該労働者の疾病の発症等について、業務がそれ以外の要因に比べて相対的に有力な原因と認められ、業務に内在する危険が現実化したものであると認められるかどうかを、・・・個別に判断することとしている」として、従来どおり相対的有力原因説、危険責任説の見解に立って判断することを繰り返しているだけです。
政府の答弁は、「疾病ごとの認定基準等に基づき個別に判断することとしている」、「こうした判断の過程において、当該労働者の障害の程度を考慮することとなる」と述べるだけで、当該労働者に障害があることは、労働災害認定において原則として検討されないということです。このため、「障害を有する労働者に特化した認定基準を新たに設ける必要があるとは考えていない」という結論になっています。
4 質問主意書三に対する答弁について
舩後議員ご指摘のとおり、最高裁判所判例は、①被災者の基礎疾患が確たる発症の危険因子がなくてもその自然の経過により脳・心臓疾患を発症させる寸前まで進行していたとは認められないこと、②被災者の従事した業務が同人の基礎疾患を自然の経過を超えて増悪させる要因となり得る負荷のある業務であったと認められること、③被災者には他に確たる発症因子があったことがうかがわれないことの3要素が認められれば、従事した業務による負荷が基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ脳・心臓疾患を発症させたと認めるのが相当であるとする見解(解釈)に立っています。
これに対して、労働災害認定の裁判で、国は、「基礎疾患を有する者」に対する認定について、病態の増悪が「急激」であるとか、「著しい」ものであることを必要として、過重な要件を課しています。
これでは、労働災害が起きても、被災労働者の病態の増悪が「急激」ではないとか、「著しい」ものではないとして現状追認がなされてしまい、予防としての労働災害対策が進まず、「基礎疾患を有する」労働者など、「障害のある労働者が安心して働け」、働き続けられる保障は全くありません。
政府の答弁は、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(令和3年9月14日付け基発0914第1号)における「基礎疾患を有する者についての考え方」を繰り返し述べるだけで、上述した点について何ら問題意識を持っていないといえます。
5 質問主意書の意義
以上のとおり、政府の答弁は、障害のある労働者が募集、採用の場面だけでなく、雇用された後の労働環境が保障される必要性が高まっている現在の状況に対する認識を欠き、「障害者雇用促進法」で保障されている障害のある労働者の権利をないがしろにするもので、改められるべきと考えます。
今回の質問主意書は、障害のある労働者が雇用された後の労働環境に着目されたもので、障害のある人の社会への「完全参加と平等」を実現していくためにも極めて意義が大きいものです。是非、引き続き、政府の方針を質していっていただきたいと思います。
以上