2022年10月27日 参議院文教科学委員会質疑(大臣所信に関する質疑、日本人学校/国連勧告とインクルーシブ教育)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。

永岡大臣御就任後、初めての質疑となります。これからどうぞよろしくお願い申し上げます。

私は、難病ALSの進行により、喉に穴を空けて人工呼吸器を付けております。全身麻痺で声も出すことができないため、パソコンによる音声読み上げ、文字盤による文章作成、秘書による代読によって質問を行います。聞き取りづらい部分もあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

それでは、質問に移ります。

まず、日本人学校など在外教育施設で働く日本からの派遣教師とその家族への支援について質問いたします。大臣も所信の中で在外教育施設に触れておりましたので、是非受け止めていただきたく存じます。

円安ドル高が続き、国内外で生活に大きな影響が出ています。当事務所には、海外、特にアメリカで暮らす日本人の子供のための在外教育施設、日本人学校で働く先生から悲痛な声が届いております。

私は以前、コロナ禍で国内待機を余儀なくされた派遣教師の方の状況について質問いたしました。その後、文科省は、国内待機手当を創設されるなど御対応いただきました。本日質問をする円安による負担増についても、是非緊急対策を講じてほしいと強く願っております。

文科省によると、現在、アメリカには91人の教師を在外教育施設に派遣しています。このうち、2022年度に派遣したのは34人です。派遣教師への手当の基本となるのは在勤手当です。

資料1を御覧ください。

在勤手当のうち、在勤基本手当と住居手当は、現地の物価や為替相場の変動などの事情を勘案して、外務省の改定に合わせた改定が行われていると示されています。しかし、不十分です。理由は、これから取り上げる子女教育手当が改定の対象になっていないのが一つ、さらに、在勤基本手当のように改定の対象になっているとしても、外貨でなく円で支給という仕組みになっている場合、為替の急激な変動に十分に対応できていないというのがもう一つです。

今回は、特に子女教育手当について取り上げます。子女教育手当の計算方法については、資料2を御覧ください。

重要なのは、今年度の支給においては1ドル108円のレートで計算していることです。現時点のレートは1ドル146円(10月27日時点)です。約1・3倍です。実質的に約3割減で受け取ることになってしまいます。当然、現地の授業料などは為替変動の影響を受けませんので、各家庭が自ら補わなくてはならないのです。

資料3を御覧ください。

日本から派遣され、米国の日本人学校に通うある家庭のケースを聞き取りした内容です。同じ家庭の昨年度と今年度の学校への支払額を比較すると、2021年度は年間で自己負担が25万円だったのに、2022年度は一学期だけで24万円に達してしまっています。学年が変わり、一概に比較できないとはいえ、このままでは年間の自己負担が3倍になる見込みだというわけです。これに加え、物価高騰による生活費の負担増も押し寄せています。

現地で働く先生からは、給料は物価が高騰するアメリカでの生活費や赴任のために借りたローン返済に充てる、学費の捻出に苦慮している、子供は3年後に帰国するので日本人学校に通って日本の教育を受けさせたいのに、このままではままならないといった悲痛な叫びが寄せられています。

今回はアメリカのケースを取り上げましたが、欧州、アジア地域においても同様のことが言えます。為替、物価高への対策は急を要します。状況は逼迫しています。大臣、派遣教師とその家族を守るため、実態把握と緊急手当ての措置を行っていただけませんか。また、そのためにも、子女教育手当や在勤基本手当を円建てではなく外貨建てにしていただけませんか。

○政府参考人(藤江陽子君)

お答え申し上げます。

在外教育施設で働く派遣教師に支給する在勤手当につきましては、文部科学省において、外務公務員の在勤手当の水準と支払方法を踏まえて設定しているところでございます。現地の物価や為替相場の変動等の事情を勘案して、毎年度数回、複数回の改定を実施していることから、まずは改定において適切に対応することといたしております。これに加えまして、御指摘の現下の物価高騰や急速な円安の影響等に伴う状況等も踏まえまして、派遣教師の教育支出等の実態を把握し、検討を進めてまいります。

文部科学省といたしましては、御指摘の子女教育手当の支出方法等について研究し、派遣教師が在外教育施設において活躍できる環境を十分に整えられるよう努めてまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

代読いたします。

大臣も御答弁をお願いします。

○国務大臣(永岡桂子君)

文部科学省といたしましては、ただいま舩後委員の、今までは百八円であったのが、このところの円安によって147円、9円と、150円近くになっていると、そのところでの、何といっても子女教育手当、これを何とかしてほしいというところでございました。

文部科学省といたしましても、しっかりと手当の支出方法などにつきまして研究をし、そして、派遣教師が在外教育施設におきまして活躍ができる環境、これを十分整えられるようにしっかりと努めてまいります。

○舩後靖彦君

質問を続けます。

現在、子女教育手当は、授業料、入学料、施設費などが支給対象になっております。しかし、学校側から事実上強制的に支払を求められている校舎整備費、スクールバス費といった費用は対象外です。子女教育手当の支給対象に含むべきと考えます。見解をお聞かせください。

○国務大臣(永岡桂子君)

子女教育手当につきましては、派遣教師の収入によりまして生計を維持している子供たちが当該派遣教師の在勤地で教育を受ける場合に必要な費用に充てるため支給をされております。その対象は、入学料、授業料等の学校教育を受けるためにその納付が義務付けられている経費でございますが、派遣教師の子供が海外において必要な教育を受けられるよう、しっかりと実態を把握をいたしまして検討を進めてまいります。

○舩後靖彦君

このまま政府が何もしないで放置することは、海外で暮らす子供たちのために奮闘している派遣教師の方々と家族を見捨てることと同じです。是非、当事者の声に耳を傾け、対応してください。このことをお願いし、この質問を終わります。

次の質問に移ります。

大臣は、所信表明の中で、誰もが学ぶことができる機会の保障に触れ、障害などの困難を抱える児童生徒などへの支援の充実をおっしゃいました。

そこで、去る9月9日、国連障害者権利委員会から出されました日本政府に対する総括所見、勧告についてお尋ねします。

勧告では、分離、特殊教育を終わらせることを目的として、障害のある子供がインクルーシブ教育を受ける権利を認め、あらゆる教育レベルで障害のある全ての児童生徒に必要な合理的配慮と個別サポートを確実に提供するために、十分な予算を伴う質の高いインクルーシブ教育に関する国家行動計画を採択することが要請されています。

これに対して大臣は、9月13日の記者会見において、現時点において、多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えてはおりません、引き続き、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいる所存ですとお答えになりました。

これは、多様な学びの場に障害のある子供を当てはめる分離別学制度から、全ての子供が共に学ぶインクルーシブ教育へパラダイムシフト、つまり規範を転換せよという権利委員会の勧告を無視するということでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

決してそういうことではないということを申し上げたいと思います。

これは、9月の13日の記者会見で申し上げたのは、引き続きまして、勧告の趣旨も踏まえまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めたいということでございます。

障害のあるお子さんと障害のないお子さんが可能な限り共に過ごす条件整備と、それから一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備をこれ両輪といたしまして取り組んでおりまして、現在多様な学びの場で行われている特別支援教育を中止するということは考えていないということでございます。

勧告には法的な拘束力はないと承知をしておりますけれども、無視するということではなくて、その趣旨を踏まえて取り組んでまいる所存でございます。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

障害者権利条約24条教育の条文解釈とも言える一般的意見第4号の締約国の義務において、第24条の完全な実現に向けて可能な限り迅速かつ効果的に移行する義務を有する、これは主流の教育制度と特別支援、分離教育制度という二つの教育制度が持続されることとは相入れないと、明確にインクルーシブ教育への転換を求めています。

勧告は、現行の特別支援教育は分離教育であり、障害のある子を含め全ての子供が共に学ぶインクルーシブ教育へ転換することで条約の遵守を求めています。にもかかわらず、大臣の会見での発言は、総括所見を正しく理解しようとしない姿勢の表れであると残念に思います。

さて、私もジュネーブに行き、障害者権利委員会と日本政府との建設的対話を傍聴いたしました。建設的対話の中で、文科省は、2013年に制度改正を行い、基本的に本人と保護者の意思に基づき通う学校が決められることとなった、最終的にどこの学校に通うかについては学校設置者の自治体の判断になると回答されていました。実際には、本人、保護者の希望と自治体の判断とは異なり、紛争が発生している場合があります。中には裁判にまで発展した例もあります。

このように、可能な限り共に学ぶと言いながら、可能な限りの限度を決めているのは自治体であり、中でも、本人に会ったこともない就学指導委員会の意思による判断が幅を利かせているのが実態です。

以下に挙げるのは、9月末に愛知県で就学相談を実施した団体に寄せられた、来年小学校に就学予定の障害のあるお子さんを持つ親御さんからの声です。療育に通っていて、そこでは特別支援学校へ行くのが当然で地域の学校の情報はなかった。トイレに一人で行ける子は通常の学校、行けない子は特別支援学校と言われた。障害があっても、必要な支援を得て通常学級で学べる、学んでいる事例がたくさんあるにもかかわらず、本人、保護者の意思決定の前提となる情報や選択肢も与えられず、また合理的配慮の検討もなく、障害のためにできないことを理由に、まさに医学モデルで障害を捉えて、地域の学校には行けないと言われている実態があります。そのため、子供の数は減っているのに、特別支援学校、学級に通う子供の数は急増しています。

しかしながら、特別支援学校に子供を通わせている親御さんに伺うと、地域の学校に行けるなら通わせたかった、地域の学校に通えると思っていなかった、いじめられる、付いていけないと言われ諦めたという声も多く聞こえてきます。

文科省が可能な限り共に学ぶことを進めても、現在の就学先決定の仕組みを改めない限り、インクルーシブ教育には到達しないと思いますが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

舩後委員にお答えいたします。

障害のない子供も含めまして、就学先は市町村教育委員会が決定をするものでございます。障害のある子の就学先を決定する際には、平成25年に制度を改めまして、本人及び保護者の意向を最大限尊重することとしております。

文部科学省といたしましては、障害のある子供が障害のない子供と可能な限り共に過ごせるように、通級による指導担当教員の基礎定数化の着実な実施、そして特別支援教育支援員の法令上の位置付けと財政措置などを行っております。引き続きまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいります。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○舩後靖彦君

代読いたします。

条件整備ももちろん大切です。でも、まずは受け入れるところから始めませんか。大臣、見解をお聞かせください。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答えいたします。

障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備、今必要であるということは御理解いただいておりますけれども、また、一人一人の教育的ニーズに応じた学びの場の整備を両輪として、今の今ではですね、そこが現在地になっております。

しっかりと、特別支援学校を中止するということは考えていないんですけど、今の今はですね、しっかりと一緒になりまして、インクルーシブ教育システムの推進に努めてまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

代読いたします。

まずは受け入れるところから始めませんかという質問についてはいかがでしょうか。大臣、見解をお聞かせください。

○国務大臣(永岡桂子君)

保護者の意見、意思を最大限尊重してまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

私は、特別支援学校、学級を全てなくせと申し上げているわけではありません。特別支援学校を選ぶ本人、保護者はたくさんいらっしゃいますし、そのことを否定しているわけでもありません。

国の文部行政の方向性として、障害に応じて多様な場に分けるインクルーシブ教育システムから、障害の有無を問わず、多様な児童生徒が同じ教室で一緒に学ぶインクルーシブ教育に原則を大転換すべきと申し上げたいのです。もちろん、学校教育法などの法制度を改正することはすぐには難しいことは承知しております。そのために、私は、2019年11月7日の本委員会で、現行の法令を変えなくとも、就学手続の実務を変えることで本人、保護者の希望に沿った就学先決定は可能だと御提案いたしました。

資料四を御覧ください。

現状では、障害がある場合、就学支援委員会での総合的判断を基に就学先が決定されます。特別支援学校に行くことになった子は、市町村教委の学齢簿から抜かれ、都道府県教委から特別支援学校への就学が通知されます。

この方式を改め、全ての子供に就学時健診の通知と一緒に校区の学校への就学通知を送ります。その上で、特別支援教育を希望する場合は、就学支援委員会を通して特別支援学校、学級に就学するというものです。このことは、障害のないお子さんが、就学通知が送られてきた後、国立、私立の学校を希望し、受験して合格すれば学校変更の手続をしてそちらに入学する方式と何も変わりません。実際に、東大阪市、横浜市、所沢市、東京都練馬区などではこうした就学手続を取っています。

就学の入口部分でまず分けるのではなく、原則を地域の学校に置き、特別支援学校への就学を希望し、かつ就学できると認定されたお子さんは特別支援学校に通う、国全体としてこの方式を取ることを提案しましたところ、当時の萩生田大臣は、地域の状況を確認し、特別支援教育の在り方に関する有識者会議において、御提案の方法も含め、障害のある子供の学びの場の在り方について検討を行っていくと答弁されました。

検討結果はいかがでしょうか。

○国務大臣(永岡桂子君)

具体的な通知の方法につきましては、各自治体の判断にはなりますけれども、文部科学省といたしましては、省内の有識者会議で検討した結果、令和三年六月に障害のある子供の教育支援の手引を改訂をいたしまして、就学先の決定プロセスにおいて、本人とそれから保護者の意向を最大限尊重すべき旨を改めて示したところでございます。

引き続きまして、就学先の決定が適切に行われるよう周知徹底に努めてまいります。

○舩後靖彦君

障害者権利委員会の総括所見は、自立生活と地域生活へのインクルージョンに関する42項と、インクルーシブ教育に関する52項の勧告に特別に注意喚起しています。

日本の国別報告者のラスカス委員は、障害の有無で分離した特別支援教育は、インクルーシブな社会で暮らしていく道のりを否定し、将来、施設で暮らすことにつながる、インクルーシブ教育なくして障害のある人の自立生活はあり得ないと強調しています。

私も、岸田総理が今国会の所信表明演説で掲げた包摂社会の実現のためには、障害のある人もない人も、幼少時から共に学び、育つことが不可欠だと確信しております。

文科省としても、教育は人格の完成とともに、国と社会の形成者を育てることを目的としているということに異論はないと存じます。分離された教育の先には地域社会の一員として自立して参画していくことはできないという指摘に対してどう思われますか。

○国務大臣(永岡桂子君)

インクルーシブな社会や、それを支えるインクルーシブ教育システムの重要性、強く認識をしております。

一方で、障害者権利条約の第24条には、障害者の精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させると、その目的が規定をされておりまして、特別支援学校を始めとする特別支援教育の必要性も高いものと考えております。

引き続きまして、全ての学びの場におきまして、障害のある子供と障害のない子供が共に学ぶ機会を推進するよう努めてまいります。

○舩後靖彦君

ありがとうございます。

次回の障害者権利委員会との建設的対話は2028年です。そのときまでに、主流な教育制度と特別支援分離教育制度という二つの軌道がある状態で、障害のある子供が通常学校から排除されるという現状が解消されるよう、権利委員会からの勧告に誠実に向き合っていただくことをお願いし、質問を終わります。