2023年9月 韓国・ソウル出張の活動報告
舩後靖彦は9月22~26日、韓国・ソウルを訪問しました。この場で活動の報告をいたします。
今回の渡航は、韓国で暮らす神経・筋疾患のある障害者や研究者、関係者によって企画されました。当事者、研究者、支援者、国会議員との意見交換、韓国の国会内で開かれるセミナーでの発表が主要な予定となります。
出発は羽田空港から。舩後は人工呼吸器など医療機器なしでは生存できません。一方、人工呼吸器などを使用する難病・重度障害者が飛行機に乗るためには、事前にさまざまな手続きをしなければなりません。診断書の提出、医師の英語のレター、持ち込む医療用品・機器の申請など……。その手続きは多岐にわたります。日本から韓国・ソウルの搭乗時間は2時間ほどですが、そのために数カ月前から準備を行いました。
地上・機内スタッフの方々の尽力もあり、搭乗手続き、搭乗、降機までスムーズに進めることができました。
ソウル市の金浦空港に到着後、現地の方がご準備いただいた福祉車両に乗り、宿泊地のホテルに向かいました。
ホテルは日系ホテルの「ソラリア西鉄ホテルソウル明洞」。部屋は広い「ユニバーサルツイン」を選択しました。舩後の体に負担がかからないよう、エアマットを持参してベッドに乗せ、その上に舩後は横たわります。ベッド周りには、呼吸器、吸引機、予備のバッテリーなどさまざまな機材を置き、舩後の介助体制を整えます。環境が整うまで数時間はかかりました。
23日は当事者や研究者の方々との交流会に参加しました。韓国料理を食べながら、約10人の障害当事者と親睦を深めました。韓国には障害当事者の国会議員が3人おられるそうですが、舩後のように言語障害があり、医療的ケアを受けている障害当事者はいないそうです。参加した当事者の方々からは「舩後さんが議員になったという記事を見て衝撃を受けた」「韓国でも舩後さんのような重度障害者が議員になる可能性があるかもしれないと希望を持った」という声が寄せられました。
休養日を1日挟んだ25日、ホテルを朝に出発して国会に向かいます。まず最初に面会したのは、チャン・ヘヨン議員です。チャン議員の妹は知的障害があります。妹の入っていた施設で虐待があったことを知り、妹を施設から出し、ともに地域で暮らす様子をドキュメンタリー映画にしました。その後2020年、正義党の比例代表として国会議員に当選して活動しています。妹との経験から「脱施設」の問題、あらゆる差別を禁止する「包括的差別禁止法」制定に向けても尽力しています(韓国ではすでに障害者差別解消法はあります)。
面談は15分の予定でしたが、想定外に盛り上がり、1時間ほどに。日本への留学経験があるというチャン議員は日本語でコミュニケーションを自ら取られました。舩後議員からは、「脱施設」に向けた韓国内の取り組み状況について質問したほか、「生産性で価値が図られる現状についてどう思いますか」と問いかけました。チャン議員は「韓国でも障害者は『労働生産性はゼロ』と思う人は多い。しかし、影響力を基準としたらどうなんだ、と。今日だって、(重度障害者の)国会議員が一人、韓国に来るのも、これだけ多くの人が一緒にいる。だから影響力という新しい基準をもって、障害者一人がいることで、社会にどういう影響力をもたらすのか。その目線から見たら、違う話になってくると思う」と提起し、舩後も強く同意していました。
その後、障害当事者である、共に民主党のチェ・ヘヨン議員とも面談しました。事故で障害者になり車いすを使用しているチェ議員は昨年、スイス・ジュネーブで行われた障害者権利委員会の対韓国政府報告審査にも参加しており、舩後と同じホテルに泊まっていたということで盛り上がりました。チェ議員は「(多目的ホールや研修室、宿泊室、レストランを備えている)大阪の国際障害者交流センターを視察するため、日本に何度も出張した」と語りました。両国の障害者の現状や政策について意見交換し、舩後は「障害や病気のある人が必要に応じてサービスを使える制度にしていきたい」と語ると、チェ議員も「その通り、同じ(意見)ですね」と意気投合しました。
昼を挟み、午後からは韓国・日本両国の当事者や専門家が集う日韓国際セミナー「神経・筋疾患障害者―生命権保障と自立生活支援政策」が開催されました。
日本からは舩後の他、NPO法人「ALS/MNDサポートセンター さくら会」の川口有美子さんが参加し、それぞれ発表しました。会場には多数の障害当事者が参加し、大盛況となりました。
翌日、金浦空港から飛行機に乗って羽田へ向かいました。往路とは異なる機材で、座席の勝手が違い、少し戸惑いながらも、無事に離陸・着陸することができました。
日本と韓国とは歴史的に障害福祉政策・制度が似通っているところがあり、共通の課題を抱えています。一方、韓国には大統領直轄の国家人権委員会(行政から独立した人権擁護機関)があり、障害者差別解消法において実効性のある調停機関がない日本にとっては、一つの目標になっています。
今回の韓国訪問で得た関係性や知見を活かし、韓国の当事者や研究者との連携を深めながら、日本の障害者政策のさらなる充実に向けて取り組んでまいります。