2024年6月4日 文教科学委員会質疑(不登校児・生徒の健康診断について)
○舩後靖彦君
れいわ新選組、舩後靖彦でございます。本日もよろしくお願いいたします。
毎年この時期、学校において、小中学校は全学年、高校、大学においては第一学年を対象とした健康診断が行われます。健康診断の実施義務は学校教育法及び学校保健安全法で定められており、その目的は、学校における児童生徒の健康の保持増進、健康状態の把握、安全確保、健康教育のためとあります。健診項目は、身長、体重、栄養状態、脊柱、胸郭、四肢の状態、視力、聴力、目の病気、耳鼻咽頭、皮膚の病気、歯及び口腔の病気、結核、心臓の病気、尿検査などです。
学校における健康診断によって、弱視、2型糖尿病、運動器疾患、虫歯などの早期発見、治療につながっているという研究もあり、子供の健康の維持、医療へのアクセスという点から重要な機会になっていると言えます。
しかし、学校に長期間通っていない不登校の子は、健康診断を受けることができないまま、心身に健康リスクを抱えている実態があります。不登校の子供たちを支援している団体から、フリースクールなどに通所している場合はその場で受診し、自宅中心で過ごしている場合は地域の保健所などで受診するなどのモデル事業実施の要望が上げられています。
文科省は、不登校の子が健康診断を受けられていない実態を把握しているのでしょうか。
○政府参考人(矢野和彦君)
お答え申し上げます。
不登校の児童生徒の健康診断を受けていない事例について、これは網羅的には把握しておりませんけれども、学校においては毎学年定期に児童生徒等の健康診断を行わなければならないこととされており、文部科学省といたしましては、当日の欠席や長期欠席など個別の事情により健康診断を受けることができなかった場合の対応について保護者に事前に周知するなど適切に対応するよう、様々な機会を通じて周知してきたところでございまして、引き続き教育委員会の担当者等が集まる場で周知に努めてまいりたいと考えております。
○舩後靖彦君
小学3年生から中学3年生まで不登校だった三枝、旧姓石田まりさんは、中3のとき、奥歯が10本以上虫歯となり、それらの歯の神経を全部取り、口の中が崩壊しました。また、背骨が曲がっていることに気が付かないまま成長し、20代になってから肩、腰のひどい痛みに苦しみました。整形外科を受診すると、側わん症と診断されました。側わんは学校の健康診断の項目に入っており、健診で見付かっていればコルセットをはめることで矯正できたのに、骨格が固まった成人になってからでは背骨にボルトを入れるという難しい手術しか治療方法はないと言われました。手術のリスクを考え、今はストレッチなどでしのいでいますが、電気が走るような鋭い痛みに耐える日々です。
学業の遅れは後から取り戻すこともできるが、健康は取り戻せない。成長期の大切なときに健康診断を受けられず、重大な健康リスクを見逃してしまった自身の経験から、現在、不登校と子供の健康の関係について研究されています。不登校の子供たちは、学校での活動がなくなることで身体活動が低下したり、社会的つながりが薄れることで身体的、精神的双方の健康リスクを抱えています。その上、学校における健康診断が受けられないことで、三枝さんのように深刻な身体的な健康リスクを見逃してしまうことがあります。
このような現状を、大臣は率直にどうお感じになられますか。
○国務大臣(盛山正仁君)
児童生徒等の健康診断は、学校生活の円滑な実施のみならず、児童生徒等の健康の保持増進を図るために実施されるものであり、健康診断を受けることができなかった児童生徒等に対しても、健康診断を受ける機会を確保する必要があると考えます。
このため、文部科学省においては、健康診断を受けることのできなかった児童生徒等に対しても適切に対応するよう、各教育委員会等に求めてきたところであり、引き続き、その周知に努めてまいります。健康診断の受診というのは大変大事なことであると考えています。
○舩後靖彦君
ありがとうございます。
不登校と子供の健康の関係について研究する中で、三枝さんは、そもそも不登校の子供に対する健康診断に関する研究、統計がほとんどないことに気が付きました。このことが、学校に通っていない子供たちの健康リスクに関する政治的、社会的な関心の低さを物語っていると思います。
また、三枝さんの研究によれば、不登校の子だけでなく、欠席や転校で学校での健診を受けられなかった子供を含め、健診を受けていない子供に対する対応は、学校ごと、地域ごとにばらばらで、定まったやり方はありませんでした。
資料1を御覧ください。
これは、不登校生徒が多数在籍している公立の定時制単位制高校一校の全校生徒780人を対象に三枝さんが行った調査結果です。有効回答数は565人で、そのうち小中学校で30日以上の長期欠席のある人は225人で、その225人を母数とした割合です。健康診断をほぼ受けなかったが4割弱、これに、受けなかったことも受けたこともあるを合わせると、6割強が健康診断を受けなかった経験があるという結果になります。ほぼ受けていたのは1割しかなく、不登校経験者の多くは受診機会を奪われている実態と言えます。
資料2を御覧ください。
生活習慣の乱れや身体的疲労度の増加、体力低下など、身体的健康値も、学校に通っていたときと比較し、有意に低くなっていることが見て取れます。
この調査結果から、全ての子供の健康と医療へのアクセスを保証するために、学校に通っていない子に対しても健康診断の受診機会を保障する必要があると考えます。
健康診断の目的を児童生徒の学校生活のためとするのではなく、子供の健康のためとすべきではないでしょうか。
学校で健康診断を受けることのできない子供に対しては、医療機関での個別受診、他学年又は近隣校での受診、校医が健康診断以外で学校に来る際に受診などの対応策が、各学校、自治体ごとに行われています。また、今後は、オンライン診療を用いた受診も選択肢となり得ると三枝さんは考えています。
それぞれの方法の実現可能性は学校、子供の状況によって異なりますが、しかし、その対応を学校、担任、養護教諭に任せたままでは、学校に来れない子供の多くが受診機会を失ったまま放置されてしまいます。三枝さんは、受診方法の選択肢を検討し、国が最低限求められるスタンダードを設定する必要があると提言していますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(盛山正仁君)
各学校におきましては、健康診断を受けることのできなかった児童生徒等に対して、例えば、他学年の健康診断実施日に合わせて健康診断を実施する、学校医と相談し、学校医の診療所等で健康診断を実施する、域内の学校間で調整し、他の学校で健康診断を実施するなど、状況に応じて様々な対応が行われているものと承知しております。
文部科学省としては、健康診断を受けることのできなかった児童生徒等については、各学校において個々の事情を踏まえた対応が必要と考えておりますが、各学校における様々な取組事例を収集、周知することなどを通じて、各学校において健康診断が適切に実施されるよう引き続き取り組んでまいります。
○委員長(高橋克法君)
速記を止めてください。
〔速記中止〕
○委員長(高橋克法君)
速記を起こしてください。
○舩後靖彦君
代読いたします。
現場任せではなく、学校以外でも健康診断が受けられる場所を政府が示すべきと考えますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(盛山正仁君)
先ほど申し上げたところでございますけど、国が基準を設けるという形ではなく、各学校において個々の事情を踏まえた対応に取り組んでいただきたいと考えております。
○委員長(高橋克法君)
速記を止めてください。
〔速記中止〕
○委員長(高橋克法君)
速記を起こしてください。
○舩後靖彦君
代読いたします。
それでは、このことを前に進めることをお約束いただけますか。
○政府参考人(矢野和彦君)
大変繰り返しになって恐縮でございますが、各学校において健康診断を受けることのできなかった児童生徒に対して、様々な状況がございますので、様々な対応が行われているということでございます。そしてまた、地域や学校によっては、歯科医あるいは医師の配置状況とか任命状況もそれぞれでございますので、やはり具体的な対応、判断は学校に任さざるを得ないという状況があることは御理解頂戴したいと思います。
その上で、個々の事情を踏まえた対応が必要となると考えておりまして、私どもとしては、様々な取組事例を収集、周知することによって、健康診断が適切に実施されるように引き続き取り組んでまいりたいと考えております。
○舩後靖彦君
不登校の子供が健康診断を受診できない現状に対して先進的な取組をしている自治体があります。吹田市では、フリースクールや市議の働きかけで、2021年、学校での健康診断を受けなかった小中学生に対して学校外での受診を可能とする制度を発足させました。市内の医師会の協力の下、内科、耳鼻科、眼科をまとめて学校医となっている内科の医療機関で、しかも個別に、保護者の自己負担なしで健康診断を受けられます。校区の学校医でなくともよいため、自分の校区の学校の子供と会うことを避けることもできます。2023年度は、受診していなかった人の2割に当たる157人が受診し、予算は50万円余りとのことです。
本来、地方交付税に教育費として学校における健康診断の費用は算定されており、学校に通えない子供も受診機会は保障されるべきです。
このような自治体の取組を全国的に広げていただくためにも、必要なところには国が財政支援をして進めていただきたいと考えますが、大臣、いかがですか。
○国務大臣(盛山正仁君)
今、舩後先生の御質問の中にもありましたように、児童生徒等の健康診断に係る経費については地方財政措置が講じられております。健康診断は学校において毎学年定期的に実施することとされており、健康診断を受けることのできなかった児童生徒等に対しても、その状況に応じて各学校において適切に対応すべきものと考えております。
我々文部科学省としましては、地方財政措置が講じられていることも踏まえ、各自治体において健康診断が適切に実施されるよう引き続き求めてまいる所存ですし、またそのような事例を詳しく御説明をしていきたいと考えております。
○舩後靖彦君
子どもの権利条約第24条は、子供たちは健康に生まれ、安全な水や十分な栄養を得て、健やかに成長する権利を持っているとしています。この権利を保障するためには、家庭のみならず社会全体で子供の健康、医療へのアクセスを保障していかなければならないと考えます。こども基本法も、その目的に、子供が自立した個人として健やかに成長することができ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指して、社会全体として子供施策に取り組むとあります。
健康は自己責任、子供の健康は親の責任という見方があります。しかし、子育て環境が大きく変わっている現在、子供の健康や貧困問題は社会全体で取り組むべき課題です。小中高校の不登校の子供が三十六万人と増加する中、学齢期の子供の健康を学校保健安全法の枠組みで対応するのでは不登校の子の健康は守れません。もちろん、健康であることは権利であって義務ではありませんので、健診を強制することはあってはなりません。
その上で、学校での集団健診のみならず、望む子は医療機関で無料で健診を受けられる仕組みをつくるべきではないでしょうか。成長期の子供にとって健康は取り返しの付かない問題であり、文科省だけでなく、こども家庭庁がこども大綱に健康診断を位置付け、国全体で取り組む必要があると考えます。
こども家庭庁としていかがお考えですか。
○大臣政務官(古賀友一郎君)
お答え申し上げます。
先ほど来、盛山大臣始め文科省において、その各学校での健康診断が適切に実施されるよう取り組むと、こういった御答弁があったところでございますし、また、この学校保健安全法上も、学校は児童生徒の健康診断を行わなければならないと、こういうふうになっているわけでございますので、まずは文科省において御対応いただきたいと考えておりますけれども、こども家庭庁といたしましても、この子供の健やかな成育を推進していくという、こういう立場からフォローをしてまいりたいと、このように考えております。
○舩後靖彦君
代読いたします。
文科省は、昨年3月、誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策、ラーニングCOCOLOプランを策定し、不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思ったときに学べる環境を整えるとしています。また、学校の風土の見える化を通して、学校をみんなが安心して学べる場所にするともうたっています。私も、その方向性は良いと思いますし、学校が誰もが安心していられる場にするために、教員の働き方を含め、学校の在り方自体を変えていかなければならないと考えています。
一方で、今現在、小中高校で36万人もの子供が不登校であり、その多くが学校で健康診断を受けられないことで将来にわたる深刻な健康リスクを見逃す可能性があることに対しては、喫緊の課題として取り組むべきです。学校に行けない子供も含め、全ての子供の成長、健康な生活を支えるため、学校での集団健診以外でも健康診断を受けられるユニバーサルな仕組みを国を挙げてつくっていくことを再度お願いし、質問を終わります。