2021年5月25日 参議院文教科学委員会質疑(著作権法改正案と読書バリアフリー法について)
○舩後靖彦君
れいわ新選組、舩後靖彦でございます。今日もよろしくお願いいたします。
著作権法の一部を改正する法律案の質疑に入る前に、昨年六月四日の本委員会で質問いたしました、読書バリアフリー法の環境整備のために出版関係者との検討の場を設けることと、その後の進捗状況について質問させていただきます。
代読いたします。
読書バリアフリー法が施行され、二年がたちます。昨年七月に、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画が策定されました。経済産業省の下に設置された検討会において、出版社からのテキストデータの提供に関する課題や方法などについて検討され、つい先日、報告書が発表されました。
そこで、まず、この間の検討内容と方向性についてお伺いいたします。
○政府参考人(小笠原陽一君)
お答え申し上げます。
令和二年七月、文部科学省及び厚生労働省により策定されました読書バリアフリー基本計画では、出版社によるテキストデータの提供の具体的な在り方について必要な議論を行っていくため、出版関係者との検討の場を設けるとされております。
これを受けまして、経済産業省では、令和二年度、今御指摘のありました読書バリアフリー環境整備のための電子書籍市場等の拡大に関する検討会を設置し、出版社からのテキストデータ提供の促進等を図るため、その障壁となる課題解決に向けた方策について議論してまいりました。
令和二年度の検討会では、出版社からのテキストデータの提供に関する今後の出版業界の取組として、アクセシブルな書籍の整備状況が把握できるデータベースの構築、テキストデータの取次ぎを行うサポートセンターの設置、テキストデータ抽出等に関する基準の整備等が取りまとめられまして、令和三年度から着手していくこととなっております。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
昨年の委員会でも申し上げましたが、私は、ページをめくって本を読むことができないだけでなく、眼球の動きにも困難があり、縦書きの文字はほぼ読めません。そのため、本を断裁して一ページずつスキャンしPDFにしてもらい、パソコンで文字を読み取れる機能を使い、音声変換して聞いています。
資料一を御覧ください。
これだけの手間を掛けてようやく本が読めるわけです。しかし、読み取りには誤変換があります。また、図版があったり複雑なレイアウトだとブロックごと飛んでしまうこともあります。視覚障害者、盲聾者、難読症、肢体不自由、私のように眼球の動きに障害がある人など、読書に困難を抱えている人を想定しますと、やはり様々な形式に変換が可能なテキストデータを出版社から提供していただくのが最善の方法と実感しています。
私の知っている限り、二〇〇〇年前後から、既に本にテキストデータ請求券を付け、紙の本を読めない読者にテキストデータを提供している出版社もあります。そのうち一社は、著者との出版契約時にテキストデータ提供の承諾を得るようにしています。そして、取引先の会社から、資料二にあるレイアウト編集のためのデザインデータ、印刷用のPDFデータ、デザインデータから抽出したテキストデータの三点セットを手数料を払って提供してもらいます。請求券が送られてきた場合、利用者に著作権遵守の確認をした上でメールでテキストデータを送付しています。このように、二〇〇〇年以降のほぼ全ての書籍のテキストデータ提供を可能にしている出版社もあります。
かつてのように、技術的に点字図書、拡大図書、録音図書、対面朗読などの手段しかない時代とは違い、電子書籍にしても紙の本にしても、デザインの基本はデジタルデータなわけです。誰もがアクセスできるテキストデータから障害の状態に合わせた様々な使い方を展開することが読書バリアフリー環境の整備に向けて必須と考えます。
出版業界の取組を加速化するために、どのような方策が出されているのでしょうか。
○政府参考人(小笠原陽一君)
お答えを申し上げます。
読書バリアフリー法の目的である視覚障害者等の読書環境整備を進めるためには、出版社から視覚障害等の方々に対するテキストデータの提供を促進していくことは大変重要であるというふうに認識しております。
他方、令和二年度に実施した出版関係者へのアンケート及びヒアリング調査結果によりますと、組み版からのテキストデータの抽出については、複雑なレイアウトからの抽出、外字の変換、あるいは図表等の抽出など課題があることが明らかになったところでございます。
令和二年度の検討会では、これらの課題解決のため、先ほど申し上げたテキストデータ抽出等に関する基準の整備を進めるとともに、経済産業省において令和三年度も引き続き検討会を設置し、出版関係者との議論を継続することとしております。
委員御指摘のテキストデータのワンソース・マルチユース転換も含めまして、出版社からのテキストデータ提供に関する議論を加速させてまいりたいというふうに考えております。
○委員長(太田房江君)
速記を止めてください。
〔速記中止〕
○委員長(太田房江君)
速記を起こしてください。
○舩後靖彦君
代読いたします。
人は一人では生きていけないとは、ある盲聾の方の言葉です。私もそう思います。
そこで、大臣にお考えいただきたいことは、我々障害者が読書文化を享受するためには何が必要かということです。いかがでしょうか。
○国務大臣(萩生田光一君)
障害種によってもいろいろ対応は変わってくるんだと思いますが、今、例えば先生のような方がテキストデータを活用しながら自分なりにその読書の環境を整えているというお話を聞きました。いろんな方がいらっしゃると思いますので、あらゆる人たちがこの読書にアクセスができる環境というのを国として一つでも前進させていくことが必要だというふうに思っております。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
検討会では、ロードマップとアクションプランを整理し、次年度以降の各主体の取組について整理すると伺っています。誰もが自由に本を読み、情報にアクセスする権利の保障のため、実効性のあるアクションプランにしていただくよう、重ねてお願いし、著作権改正法案の質問に移ります。
まず、図書館関係の権利制限規定の見直しについてお伺いいたします。
コロナ禍で図書館が使えない状況が続きました。今回の改正では、公共図書館等が調査研究用に図書館資料の一部をメール等で利用者に送信できるとしています。この場合は、利用者の事前登録、コピーガード措置を講じる一定の条件を満たす図書館のみが対象など、権利者保護のための条件が定められています。しかしながら、図書館で閲覧、コピーするだけでなく、資料の一部であってもスキャンデータを入手できれば何部でもプリントアウトは可能です。
また、データの共有、流出の懸念もあります。これは今回の改正で一番懸念されるところです。専門書を出している出版社は中小出版社が多く、部数も少ないため、こうした不正利用によって出版社、著者に不利益が生じると、専門書、研究書の出版活動の低迷を及ぼしかねません。
改正案では、公衆送信に伴う権利者の不利益補填のために図書館の設置者が権利者に補償金を支払うとしています。補償金の金額、支払方法については、不利益を被る可能性のある権利者の意見を主要な業界団体からだけではなく幅広く聴取する必要があると考えます。この点について御見解をお聞かせください。
○政府参考人(矢野和彦君)
お答え申し上げます。
補償金の徴収や分配を行う指定管理団体は、今回の制度改正によって影響が出る可能性のある図書等の著作物の公衆送信権を有する者の団体や電子出版権を有する者の団体で構成することが指定の要件となっております。
この指定管理団体は、図書館等の設置者団体の意見を聞いて補償金の料金体系や金額の案、分配の方法等を作成することとなっており、補償金の額については文化庁長官が文化審議会に諮った上で認可の判断を行うこととしております。
文化庁におきましては、文化審議会での審議の際に、指定管理団体及び図書館等設置者団体双方の意見を聴取することを想定しており、権利者を含めた各関係者の幅広い意見を十分に踏まえた補償金額、支払方法となるように、御指摘も踏まえて適切に対応してまいりたいと考えております。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
補償金の徴収、支払を一括管理する指定管理団体の公平性、透明性を担保するために、どのような仕組みが取られるのでしょうか。
○政府参考人(矢野和彦君)
お答え申し上げます。
指定管理団体は図書等の著作物の公衆送信権を有する者の団体や電子出版権を有する者の団体で構成されますので、当該団体が補償金額を決定するに当たっては、図書館等の設置者団体の意見を聞いた上で案を作成し、文化庁長官が文化審議会に図った上での認可を判断することとしております。
この制度では、図書館等は、個々の送信実績を正確に把握、管理することが可能であるため、より確実に個々の権利者に補償金を分配することが可能であると考えております。
さらに、指定管理団体の運営に関しては、実際に指定管理団体が補償金関係業務を開始しようとするときは、補償金の分配に関するルールを定めた業務執行規程を定め、文化庁長官に届け出なければならないということとしております。
文化庁長官は、補償金関係業務の適正な運営を確保するため必要があると認めるときは、指定管理団体に対し、報告や帳簿等の提出を求めることができ、さらに、執行方法の改善のため必要な勧告をすることができるとしております。
必要に応じて、これらの措置により指定管理団体の業務執行が適正になされるよう対応してまいりたいと考えております。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
次に、放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化についてお尋ねします。
スマホやタブレットでいつでもどこでもネット配信番組が見られる現在、ましてコロナ禍で自宅でインターネット動画を見る時間が増えた今、放送番組の再活用に当たって一括で円滑な権利処理が行えることは利用者、放送事業者側にとってはいいことだと思います。一方、放送番組の出演者等の権利者にとっては、特段に同時配信への意思表示をしていなければ、放送の許諾をしたことで同時配信の二次使用も認めたということになってしまいますと大変な不利益になるのではないかと懸念します。
許諾推定規定の運用に当たっては、著作物の利用に当たって著作権者の許諾を得るという著作権法の大原則がなし崩しになることのないようガイドラインを策定していくことが重要だと考えますが、この点について御見解をお聞かせください。
○政府参考人(矢野和彦君)
全く委員御指摘のとおりだと考えておりますが、著作物の利用に際して著作権者の許諾を得るということは、これ著作権法の大原則でございます。今回新たに創設される許諾推定規定は、例えば時間的な制約により同時配信等の具体的な契約を交わすことができない場合や同時配信等の可否を明示的に確認できないような場合など、同時配信等の権利処理が困難な場合に利用されることを想定した規定でございます。
このような事情がない場合には、同時配信等で用いることを明示した契約を明確に締結していただくという原則に立ち返るということが重要であるというふうに考えております。
今後、権利者にとって不意打ちとなることのないよう、不意打ちとなるようなことのないよう、具体的な適用条件や運用について総務省、文化庁の関与の下で関係者間でガイドラインを策定することとしており、関係者の御意見を丁寧に伺いながら検討してまいりたいと考えております。
以上でございます。
○舩後靖彦君
代読いたします。
ありがとうございます。
あらゆる文化芸術は、その担い手、著作権者の人格権、財産権が適正に守られてこそ私たちはその成果を享受でき、生活を豊かにすることができます。ネット時代の要請に応え、著作権法が改正されていくことは当然のことですが、著作権法の大原則を損なうことのないよう、法改正後の運用についても注視してまいりたいと存じます。
以上で質問を終わります。ありがとうございました。