2023年5月25日 参議院文教科学委員会質疑・反対討論(日本語教育機関認定法案)

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。

本日もよろしくお願いいたします。

〔委員長退席、理事赤池誠章君着席〕

日本語教育機関の認定に関する法律案の審議となりますが、私のいとこが日本語学校で教師をしていることから、非常に身近なテーマとして問題意識を持っております。

それでは質問いたします。

今回、法案審査に当たり、日本語学校で働く先生にお話をお聞きしました。その方は、非常勤の日本語教員として働いて6年目になりますが、手取りで年収200万円に届かないそうです。副業されているので何とか生活できているそうですが、ほかの常勤の先生であっても、額面の月収が20万円程度という方も多いそうです。若い先生はコンビニでバイトをしている人もいるともお聞きしました。この水準なので、若い人が育たず、高齢の教員が多くなっているとのことです。当然だと思います。統計的にも、現在の労働条件に問題があることは明確です。

資料1を御参照ください。日本語教師として活動している方の5割はボランティア、非常勤が3割で、常勤は2割に届きません。

資料2のとおり、常勤であったとしても、大学以外の日本語学校では7割が年収400万円以下です。非常勤の場合も、大学以外は1こま1時間当たりの単価が3000円未満にとどまっている実情が見えてきます。

こうした現状を踏まえ、今回の法案で日本語教員を国家資格化することが改善につながるのでしょうか。

2019年に成立した日本語教育推進法には、国は、日本語教育に従事する者の能力及び資質の向上並びに処遇の改善が図られるようと明記されています。処遇改善のため、どのような措置を講じるおつもりなのでしょうか。衆議院の文部科学委員会で、永岡大臣は、処遇改善と人員確保、これをしっかり努めてまいりたいと答弁されておられます。実際、どのようにお進めになるつもりなのでしょうか。

文化審議会国語分科会日本語教育小委員会でも、謝金を買いたたかない仕組みにして、標準謝金のようなものがないと変わらないとの委員の意見も出ていました。

処遇改善にどう取り組むのか、見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

舩後議員にお答え申し上げます。

〔理事赤池誠章君退席、委員長着席〕

本法案においては、登録日本語教員の新たな国家資格を設けておりまして、これにより、登録日本語教員の必要性や専門性の社会的認知の向上が期待でき、処遇の改善にもつながると、そう考えております。

そのほか、登録日本語教員が活躍できるよう、日本語指導に必要な専門性を高めるための研修や、教員自身のキャリアが証明できるようなサイトの構築などに取り組んでおります。

それから、登録日本語教員の謝金や報酬について標準額を定めることにつきましては、日本語教育機関は設置主体や所在する地域が多様でありまして、また教員の能力や学習者の属性なども多様であること、そして報酬等の額は雇用主と教員の間の契約関係の中で決定されるものであることから、国が一律に定めることは課題があります。

他方で、登録日本語教員に対しまして、その能力や職務に見合った処遇がされる必要があると考えておりまして、養成、研修を通じまして教員の専門性を高めて、そして情報発信によりその専門性の社会的認知を高めることなどによりまして処遇の改善につながるよう取り組んでまいりたいと考えております。

○舩後靖彦君

その取組で本当に処遇改善が図られるか、検証が必要だと思います。

続けてお尋ねします。

国家資格を創設することで、専門職であると認知度が上がる部分は一定程度期待できるかと存じます。しかし、国家資格化によって、十分にそれだけで専門職として食べていける、処遇が改善されるという根拠はあるのでしょうか。認定日本語教師同様、名称独占の国家資格として社会福祉士、保育士、介護福祉士などがありますが、なりわいとして専門職としてふさわしい処遇を得ているでしょうか。私は不十分だと思います。

資格をつくるだけでは処遇は改善しません。日本語教師という専門職を育て守るためには、国としてより積極的な投資が必要なのではないでしょうか。大臣の見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

先ほどお答えしたとおり、登録日本語教員に対しては、社会のニーズが高い就労者等の日本語指導に必要な専門性を高めるための研修や、研修履歴を記録し教員自身のキャリアが証明できるサイトの構築などに取り組んでまいります。

また、本法案が成立した際には、地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業におきまして、認定日本語教育機関と地方公共団体等とのこの連携ですね、連携を支援することで、認定日本語教育機関や登録日本語教員の活用というものを促進することとしております。

文部科学省といたしましては、こうした支援を通じまして、専門性が高い登録日本語教員が社会において適切な評価を受け、そして処遇改善につながるよう努めてまいります。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○舩後靖彦君

代読いたします。

大臣、専門職にふさわしい処遇の実現をお約束いただけますか。

○国務大臣(永岡桂子君)

先ほどの支援を通じまして、専門性が高い登録日本語教員が社会において適切な評価を受け、そしてそれが処遇改善につながるように努めてまいります。しっかりと努めてまいります。

○舩後靖彦君

質問を続けます。

本法案で、文科省の所管で認定日本語教育機関制度を創設することを盛り込んでいます。しかし、日本に来ていただける外国籍市民のため、この制度だけでは十分な言語教育の機会があるとは言えないのが実情です。国として言語教育政策プログラムが必要です。

資料を御参照ください。

これは、各国が取り組んでいる外国籍市民への言語教育の取組です。2018年のまとめなので少し古い部分もありますが、例えば近隣の韓国の事例を更に詳しく説明すると、政府による社会統合プログラムが用意され、専門的な韓国語教師による教育などを受けることができます。永住権や帰化申請などへのインセンティブもあり、人権を重視する国として、外国人材をめぐる争奪戦を見据えたイメージ戦略を展開しています。海外にルーツを持つ子供、例えば日本にルーツを持つ子供に対しては、あなたは韓国と日本をつなぐ貴重な人材だから日本語もしっかり学ぼうという明確な理念があり、希望すれば母語教育にも予算が付く制度になっているとのことです。

こうした他国との取組を比較すると、残念ながら日本の取組は遅れていると言わざるを得ません。重要なのは、言語権、つまり、自ら望む言語を学び、使う権利を保障するという視点です。留学や就職、結婚などで日本で暮らすことを選んだ方に対し日本語を学ぶ機会を保障することは、国の責任だと考えます。

当事務所が行ったヒアリングの中で、帝京大学日本語教育センターの有田佳代子教授はこのように指摘されました。これまで日本語教育の大きな役割を担ってきたボランティアによる地域の日本語教室は、日本人と外国人との交流の場、外国人住民同士が情報交換できるような居場所となっています。一方で、本来は公共で担うべき日本語教育を無資格のボランティアの人たちの善意に丸投げしているという側面もあるのではないでしょうか。やはり、言語の初期教育は専門家が計画的に行うべきだと理解をしていただきたいと思います。

まさにこのとおりです。このためにも、国は明確な言語教育政策プログラムを展開し、そのために教育機関と人材に投資をすべきではないでしょうか。

この点について見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

外国人の方が我が国において生活するために必要な日本語を理解をして、そして使用する能力を習得するためには、日本語能力を身に付けられる環境の整備が必要でございます。

このため、本法案では、質の担保された日本語教育機関の認定制度、認定された機関で日本語を指導する登録日本語教員の資格制度、これを創設いたしまして、日本語を学びたい外国人に対し質の高い日本語教育を提供できる環境整備を図ることとしているわけでございます。

○舩後靖彦君

次に、日本語学習が必要な子供たちについてお尋ねします。

専門家の方からは、特に子供たちの権利擁護についての懸念が示されています。

先ほども紹介した有田教授はこのように指摘されています。外国人の子供も手話を第一言語とする聾の子供たちも、母語も日本語も十分な習得の機会がないケースがあります。そのため、本来の学習意欲や実力とは関係なく、学力がないと誤解される、自己責任でチャンスを失ったから仕方ないと思われたまま社会にどんどん押し出されていってしまうという現実もあります。本当に一刻も早く改善しなければならない待ったなしの社会問題です。本当にそのとおりだと思います。

本法案は日本語学校における日本語教育を主眼としていますが、子供の言語権保障のための取組を一刻も早く進めなければなりません。日本語教育はもちろんですが、外国籍市民であればその国の言葉、聾者であれば手話言語の教育機会を国の責任で提供すべきと考えます。この点についてどのように取り組むおつもりか、見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

日本語指導が必要な外国人児童生徒等は平成24年より約10年間で1.8倍に増加をしており、外国人児童生徒等のアイデンティティーの確立や日本語習得の観点から、母語や母文化ですね、の習得への支援が重要であると考えております。

このため、文部科学省では、日本語指導だけでなく、母語支援員の、母語支援員等の外部人材の派遣、母語、母文化の学びに資する取組などに取り組む自治体を補助事業などで支援をしているところでございます。

また、聴覚障害のある児童生徒等に対して、その障害の状態等に応じて、音声、文字、指文字等、適切なコミュニケーション手段を選択して使用できるよう、きめ細かい教育を行うことが重要でありまして、そのことを特別支援学校学習指導要領に記載をしております。各学校においては、特別支援学校、ごめんなさい、特別支援学校学習指導要領を踏まえまして、障害の状態等に応じて適切に指導をいただいているものと承知をしているところでありまして、文部科学省においても、令和2年3月に聴覚障害教育の手引を作成をし、指導の充実を図っているところでございます。

引き続きまして、日本語指導が必要な児童生徒等や聾者等のためのきめ細かな支援、しっかりと取り組んでまいります。

○舩後靖彦君

2019年に成立した日本語教育推進法では、日本語教育を外国人等が日本語を習得するために行われる教育と定義しています。さらに、同法における外国人等とは、日本語に通じない外国人及び日本の国籍を有する者と定義しています。

一方、今回の法案では、外国人等という表記は条文上出てきません。なぜこのような指摘をするかというと、日本語教育が必要なのは外国籍市民だけではないからです。具体的な例としては、手話言語を第一言語としている聾者、聾児の方々です。手話言語は、日本語とは異なる文法を持つなど異なる言語であることから、聾者、聾児にとって日本語の学習機会を適切に提供することも重要です。

そこで、お尋ねします。外国籍市民ではないが日本語学習が必要な人に対して、本法案はどのように想定しているのでしょうか。見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

本法案では、認定日本語教育機関の日本語教育課程の目的について、認定対象となる機関の範囲を明確にする必要があることから、日本語に通じない外国人に対して日本語教育を行うこととしております。

しかしながら、現場においては、認定を受けた機関が外国籍ではないものの日本語に通じない者を対象に日本語教育を行うことは可能であることから、必要に応じまして認定日本語教育機関の日本語を教える専門性が生かされていくよう今後工夫をしていく必要があると、そう考えております。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○舩後靖彦君

代読いたします。

通告していませんが、もし分かれば教えてください。知的障害のある外国人の子供の場合はどのように指導されていますか。

○委員長(高橋克法君)

速記を止めてください。

〔速記中止〕

○委員長(高橋克法君)

速記を起こしてください。

○国務大臣(永岡桂子君)

お答え申し上げます。

障害のある児童生徒については、特別支援学校、特別支援学級の多様な学びの場におきまして、一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた指導が行われています。

御指摘の外国人の子供が在籍している場合は、担任の教員とその子供の母語を理解する教員や支援員との連携、日本語を要しないカードや写真などを用いたコミュニケーションなどの工夫をしながら指導が行われている例があると承知をしております。

外国人児童生徒等については、障害のある外国人児童生徒等も含めて、小中学校等に通う日本語指導が必要な児童生徒の支援体制を整備するため、日本語指導に必要な教職員定数の着実な改善、外国人児童生徒等に対する日本語指導に取り組む自治体に対する支援などを行ってきたところでございます。

本法案成立後には、登録日本語教員を学校におけます日本語指導の補助者等として活用する具体的な仕組み等を検討していくこととしております。

引き続きまして、障害のある外国人児童生徒等に対する支援に積極的に取り組んでまいります。

○舩後靖彦君

代読します。

ありがとうございます。

質問を続けます。

本法案は、外国語を話す外国籍市民の方のための日本語学校、日本語教育を想定しているとのことですが、手話を第一言語としている聾者、聾児に対して適切な日本語学習の機会が保障されることを強く望みます。

次の質問に移ります。

今回の法案で新設する登録日本語教員の資格について、現場の教員の方からは現職教員に対する試験、研修の負担軽減が必要との不安の声があります。現在検討中の資格取得ルートとしては、一定の条件を基に実習や筆記試験を免除するとの案があるとお聞きしています。一方、免除は経過措置期間限定で、試験が必要になる場合の金銭的負担については明確になっていないなどの懸念もあります。

これまでやりがい、志を持って日本語学校で働いていた方々に過重な負担がない仕組みが必要だと考えますが、見解をお示しください。

○国務大臣(永岡桂子君)

舩後先生おっしゃるとおりかと思います。

令和四年度の有識者会議報告書では、現職日本語教師を対象とした経過措置を検討することとされております。具体的には、民間試験の合格者や法務省告示校などの一定の質を満たす機関で実務経験を有する者などを対象に試験や実践研修の一部を免除することが提案されておりまして、法案成立後、審議会等で検討することとされております。

御指摘の時間的、金銭的な負担の観点も含めまして、円滑に現職の教員の皆様方が登録日本語教員に移行できますように、しっかりと検討してまいります。

○舩後靖彦君

ありがとうございました。

外国籍市民が日本で安心して暮らすため、国の責任で日本語教育の機会を提供することが重要です。そのためには、日本語教師の処遇改善は欠かせません。

この点を改めて強調し、質問を終わります。


◆反対討論

○舩後靖彦君

れいわ新選組、舩後靖彦でございます。

私は、会派を代表して、日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律案に反対する討論を行います。

本法案では、新たな国家資格として登録日本語教員を創設するとしています。しかし、国家資格をつくるだけでは、現在の日本語教育機関における問題の一つである日本語教師の処遇改善につながるとは言えません。

日本語教師として働く方は、大学を除けば、常勤であっても大半が年収三300万未満、400万未満と低水準にあります。非常勤の場合は更に厳しく、専門職としての待遇とはとても言えません。

ほかの資格の例を考えても、国家資格化だけで処遇改善が解決しないことは政府も分かっているはずです。本来であれば処遇改善のための予算措置などを講じるべきですが、そうした見通しは立っていません。外国籍市民の方々に適切な日本語教育の機会を提供することは国の責務だと考えます。そのためにも、日本語教師の方々が専門職としてふさわしい処遇と社会的地位を得るべきです。本法案だけでは、処遇改善への担保がなく、不十分と言わざるを得ません。

また、深刻な問題の一つとして、子供の権利を守るための取組が不十分であるという点があります。例えば、外国人の子供や手話を第一言語としている聾の子供たち、彼らは母語も日本語も十分な習得の機会がないまま、社会にどんどん押し出されていってしまう現状があります。自ら望む言語を学び使う権利、言語権を保障することは喫緊の課題となっておりますが、本法案にはこうした問題意識も欠けていると言わざるを得ません。

日本語学習を必要としている人たちの人権を守るため、国としての責任を果たすべきだと申し上げ、私からの討論といたします。


この法案審査を巡り、舩後は法案には反対することを決めました。一方、法律が成立した場合、現状を改善し、課題を解決するために、少しでも前に進めることも必要だと考えました。特に日本語教師の処遇改善や、望む言語を学び使う「言語権」の保障を確保する観点から、文教科学委員会として、法案への意見を表明する「付帯決議」について、その内容を盛り込んだ提案を行いました。

具体的には、

・国際人権規約や児童の権利条約の趣旨を踏まえ、子どもが適切な支援を受けられるよう求めるとともに、日本語を母語としない子供の日本語学習に当たっては、アイデンティティの確立、自己肯定感の育成等の観点から、母語や母文化の学びに対する支援にも努めること

・日本語教育は、外国人に限らず、日本語に通じない日本国籍を有する者に対しても行われるものであることを踏まえ、国籍にかかわらず、外国にルーツを持つ者や、聴覚障害者など様々な事情により日本語学習が必要な者への日本語教育の機会についても、本法施行を契機として拡充を図ること

・登録日本語教員について、職務の重要性にふさわしい適切な賃金水準の確保に向けた検討を進めること

・外国人が社会の一員として活躍し、全ての人が安全に安心して暮らすことができる社会の実現には適切な日本語教育の提供が不可欠であることから、日本語教育についての国民の理解と関心を深めるよう啓発に努めること。

などについて、独自に提案をしました。こうした提案内容は、与野党からもおおむね支持され、参議院文教科学委員会の付帯決議に盛り込まれました。

法律施行後も引き続き、適切な施策が実施されているか、点検していきます。